C-2

「茨から聞いたんすけど、あんた、玲明の特待生なんすよね?」

先輩たちから離れてすぐ、漣先輩に聞かれたのがこれだった。

「はい。コズプロ的にはスパイになってほしいみたいですけど」

「それでいいんすか?」

「え?」

「アイドルになりたかったんでしょ」

「まあ……あー、いや、正確に言えば私がなりたかったのは俳優ですけど」

別に隠しているわけではないし、七種先輩にはもう言ってることなので正直に話せばビミョーな顔をされた。何その顔。

夢ノ咲こっちにいるのも1年だけって聞いてますし、終わればまた玲明に戻りますよ。それに、ある意味演技の練習にもなりますから」

最後のは今テキトーに思いついたけど。

「ふぅん。つか、俳優志望なのに何で玲明を選んだんです? や、嫌なら答えなくてもいいんすけど、玲明はアイドル養成校でしょう」

「私が選んだわけじゃないんです」

「え?」

「母親が元アイドルなんですよ。デビューして2、3年くらいでしたかね……収録中の事故で顔に大けがしちゃって引退して。私に"続き"をやってほしいんだと思います。元々志望してた高校も知らないうちに入学を辞退されてて、代わりに渡されたのが玲明の入学案内だったので」

これももう七種先輩には以下略なので、漣先輩の至極まっとうな疑問にも普通に答えた。

漣先輩に目を向けると、いや目を向けたはずが、そこに先輩はいなかった。

「漣先輩?」

少し後ろで足を止めていた先輩に振り返ると、ハッとしたように顔を上げてこちらにすぐ追い付いてきた。

「なんつーか、変なこと聞いて悪かったっすね。俺も似たようなモンなんでつい共感しちまったっつーか……まあ、忘れてください」

「似たようなモンって?」

「忘れろっつった矢先にツッコむんすね」

「そりゃ気になりますよ。や、嫌なら答えなくてもいいんすけど」

「真似すんな」

軽く肩を小突かれた。意外だ。

「あっ、すんません! 痛かったっすか?」

「いや、全然大丈夫です。先輩意外と面白いですね。七種先輩から"ジュンは飢えた獣なのでお気を付けください!"って言われてたんですけど、あれ何だったんでしょうね?」

「GODDAMN! 茨のヤツ、変な入れ知恵しやがって……。だいたい、それで言ったらおひいさんの方がよっぽど厄介ーーはぁ、まあいいや」

「ところで先輩」

「はい?」

「お手洗い、かなり通り過ぎてます」

「何でそれを先に言わねぇんですかねぇ〜!?」

「漣先輩と2人になりたかっただけなので。察してくれて助かりました。もう戻りましょうか」

「傍から聞いたら誤解されそうな物言いよしてくださいよ。ま、オレも話せてよかったっすけど」

それから来た道を戻りレッスン室に着くと、すでにTrickstarの先輩たちは入室しているようだった。私たちも続いて部屋に入ると、瞬時に気づいた巴先輩が足早に近づいてきた。

「ジュンくん! 待ちくたびれたね!? きみよりも偉いぼくを単身敵地に乗り込ませておいて、自分は女の子といちゃいちゃするなんて、どういうつもりなんだろうね!?」

「おひいさん、敵地じゃなくて仕事先っすよ。それにこの人は夢ノ咲のプロデューサーで、道案内を頼んだだけです」

「きみ、名前は何ていうのかな? 知ってると思うけど、ぼくは巴日和だね!」

「プロデュース科1年の浅上ユリです。よろしくお願いします」

「……へぇ、きみが毒蛇のお気に入りの子だね? うんうん、面白そう。せいぜい毒に侵されないよう、ぼくが守ってあげようね」

周りに聞こえないような小声で話す巴先輩。とりあえず顔が近い。っていうか毒蛇って何。

聞き返したかったが、これ以上のコソコソ話は他の先輩に怪しまれてしまうか。

「巴先輩、近いっす」

「……その表情かお、その言葉。ジュンくんにそっくりだね」

「は? 女子相手に何言ってんすか、あんたは。失礼でしょ」

漣先輩が呆れ顔で巴先輩を引っ張っていき、その後は何事もなくレッスンが開始された。何事もなくってことはなかったけど、まあ、Trickstarは本人たちも気づかないうちにEveのやり方にのまれ始めていた。

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