C-4
英智先輩の指示通りKnightsのレッスンルームを訪れると、案の定瀬名先輩が怒っていた。
「アンタさぁ、時間も守れないわけ?」
「すいません」
「いつもそれだけど、謝る気ないよねぇ?」
めんどくせぇ! とは思うものの仕方ない。悪いのは全部英智先輩だけど。
「まあまあ泉ちゃん、ユリちゃんが遅刻なんて珍しいじゃない。何かあったの?」
嵐ちゃんが助け舟を出してくれた。嵐ちゃんは先輩だけどちゃん付けで呼ばれたいらしいので嵐ちゃんと呼んでいる。
「まあ……なんていうか……ついさっき今から打ち合わせ行けって英智先輩に言われて。直行してきたんですけど、間に合わなかったみたいですね。何時集合だったんですか?」
「はぁ!? 時間も聞いてないの?」
「瀬名先輩、落ち着いてください。話を聞く限り、今回は浅上さんに非はないでしょう」
朱桜くんも瀬名先輩をなだめ始めた。横で寝ている凛月先輩、この騒ぎでよく起きないな。
「や、理由はともかく遅れたのは事実なんで、すいません。次回からもっと確認するんで許してください、瀬名先輩」
「ユリは大人だねぇ」
「あー、おはようございます、凛月先輩。重いっす」
「今日もちょうどいい身長……♪」
「身長は急に変わんないっすけどね」
背中にもたれかかる寝起きの凛月先輩を背負いつつ、座らせようと椅子まで移動する。クソ重い。
そうこうしているうちに瀬名先輩の怒りも鎮火したのか打ち合わせが始まった。相変わらず王様はいないけど、まあそのうち来るだろう。
「今回の撮影は浅上さんも参加されるそうですが、modelの経験がおありなんですか?」
「うん、昔ちょっとだけ。女児服のモデルだけど」
「今回のはもっとオトナな感じでって指定だけど、大丈夫かしら?」
「オトナ?」
嵐ちゃんの心配そうな表情につい首を傾げた。相手役とは聞いたが何の相手なのかまでは聞いていない。
「その様子だと企画書も見せてもらってないみたいね。心配だわァ」
嵐ちゃんに差し出された企画書を見て唖然とした。これ高校生にやらせる? Knightsのメンバーは"高校生アイドル"なだけあって比較的まともな衣装を用意されているようだが、相手役は顔出しをしないからかその分やたらと露出度の高い衣装のようだった。
「これ、もはや下着ですよねぇ……」
「着こなせないなら早めにNG出してよね。後で"やっぱ無理〜"とか言われると迷惑だから」
「これでも泉ちゃん、心配してるのよ」
「ちょっと、適当言わないでくれる?」
嵐ちゃんがフォローを入れてくれたがそれどころではない。
私だって上に言われて今はプロデューサー業をしているが、元々は俳優志望だしアイドルになるための教育を受けてきた。体型維持やボディケアを怠ったことなんて1度もないし、容姿についてはそれなりに自信がある。
「いいっすよ、瀬名先輩。完璧に着こなしてみせるんで、見惚れて撮影ミスんないでくださいね?」
「良い度胸じゃん。じゃ、早速着替えてくれる?」
チョ〜うざぁい! って言われるかと思ったら違った。いや待ってもう衣装あるの?
「嵐ちゃん、この依頼いつからきてたんですか?」
「え? 確か先週くらいだっと思うわ。貰った衣装はさすがに本物じゃなくてサンプルだけどね」
「ガッ……」
「が?」
漣先輩じゃないけどこれはガッデムだ。GODDAMN! って言いそうになった。もっと早く言ってよ。
「……英智先輩ほんと、嫌いだわぁ……」
*****
別室で着替えてから再びKnightsのメンバーのいるレッスン室に戻った。ちなみに衣装が衣装なので一応上下ジャージを着ている。先輩たちも衣装合わせの意味もあり着替えていた。
「お待たせしました〜。うわ、みなさん似合ってますね」
「当然でしょ」
「朱桜くん、かっこいいね」
「えっ、あ、ありがとうございます!」
「俺をシカトするとかほんとナメてるよねぇ〜?」
「痛ってぇ! ちょっと、パワハラなんですけど」
頭を拳でぐりぐりされた。
「だいたい、瀬名先輩は喜んでくれないから褒め甲斐がないんすよ……」
「ほんっとに減らず口だよねぇ」
「てか、最初に"みなさん"って言ったじゃないですか。瀬名先輩も含まれてますからね。いつも通りかっこいいんで、安心してください」
「で、あんたはどうなの? 俺たちと並ぶ自信は、当然あるんだよね?」
フォローを完全にスルーした瀬名先輩のその一言に、私は一度姿勢を正し、そして胸を張った。
「もちろんですよ。今のうちに見慣れといてください」
衆人環視の中ジャージを脱ぐのはさすがに少し恥ずかしいが、まあしょうがない。それより、恥ずかしがってるのを見せたら負けだ。
ちゃっちゃとジャージを取っ払って、渡されたサンプル衣装を披露した。
Knightsのイメージに合わせた紺色の衣装は、下着にしては布面積が広いが、これで廊下を歩けるかと聞かれれば頷けるわけもない。レースで透けているところもあり、とりあえずボディラインは丸わかりだ。
『…………』
「……せめてなんか言ってもらえません?」
沈黙に耐えかねてそう促すと、最初に口を開いたのは嵐ちゃんだった。
「ユリちゃん、とっても似合ってるわァ〜!」
「ありがとうございます。嵐ちゃんに言われると自信が出ますね」
「最初から自信満々だったじゃん。まあ、良いんじゃない?」
「凛月先輩、さすがにこの格好でおんぶはしませんよ」
「え〜」
じっと品定めをするような視線もあるがーー主に瀬名先輩だーー、嵐ちゃんと凛月先輩は褒めてくれたし、朱桜くんは顔を赤くして目を覆っている。感触は悪くない。
「瀬名先輩、満足していただけました?」
「……髪はアップの方がいいんじゃない?」
「確かにそうね。アタシがやってあげる♪」
瀬名先輩が少しむすっとした表情のままそう言うと、即座に嵐ちゃんに鏡の前に連行された。
「泉ちゃん、あんな態度だけど、結構気に入ってると思うわよ」
「えっ。」