増えるポッセ
【帝統視点】
言い合っている俺と乱数を見て笑っていた幻太郎は、明歩のことが気になるみたいだった。
乱数はともかく幻太郎はこの手の話題にはそんなに乗ってこないだろうと思っていたから意外だ。
「じゃあじゃあ、今からそのオネーさん、帝統に呼んでもらおうよ!」
「いいですね。ほれ帝統、早く連絡してたもれ〜」
まあ、明歩もポッセのことは知ってるみたいだし、ここらで紹介しとくのもいいか。
上着のポケットからスマホを取り出して、明歩に電話をかけた。
「お、明歩今ヒマか?」
『え、暇っちゃ暇だけど、夕飯の買い物行こうと思ってたとこ。何かあった? てか今日来るの?』
「あー、今日メシいんねーから、今からこっち来てくれよ」
『……賭場?』
「賭場じゃねぇよ! 場所送っから、とにかく来てくれって。乱数と幻太郎が会いたがってんだよ」
『えっ、な、なんで?』
「いや知らねぇけど。挨拶じゃね?」
『挨拶すんのどっちかっていうとうちの方だと思うけど……まあいいや。わかった、じゃあ今から行くから』
「おう、待ってんぜ。じゃーな」
通話を切って、明歩に乱数の事務所の場所を送る。
それから少しして、今度は明歩から"着いた"と連絡が来た。
「明歩オネーさん着いたって? 迎えに行ってあげなよ」
入口から入るだけなのに迎えってなんだよとは思いつつ、乱数に言われて明歩を迎えに行く。
「よぉ。……ん、何か買ってきたのか?」
事務所のドアを開けるとそこには当然明歩がいた。片手に箱の入ったビニール袋を持っている。
「あ、帝統。挨拶すんのに手ぶらなのもアレかと思って」
「食いモン?」
「シュークリーム」
「よっしゃあ!! 腹減ってたんだよなぁ〜」
「や、飴村さんたちへの手土産だからねこれ。帝統の分もあるけどさ……」
*****
【幻太郎視点】
帝統が連れてきた恋人だという女性は、一言でいえば"ギャル"だった。
とはいえ過剰にケバケバした外見などではなく、露出はやや多いものの清潔感のある女性だ。
予想通りなような予想外のような、と思いつつ見ていると、彼女は持ってきたらしい手土産を乱数に渡していた。
「ありがと、明歩オネーさん☆ ここのお店すっごくおいしいよね!」
「そんなにうめぇのか?」
「そうだよ、この前テレビで――」
と、乱数とは話が盛り上がっているようだ。
乱数がお皿を用意しに行ってから、帝統に促されて彼の横に座った明歩さん。そういえば苗字はまだ知らないな。
「あの、夢野さんはこういうの食べられますか?」
「実は小生、宗教上の理由でシュークリームは食べられないんです……」
「「えっ」」
少し不安げな表情でそう聞かれ、ついつい嘘を吐いてしまう。
彼女は慌て始めるが、横の帝統も何故か驚いている。また騙されているのか。
「もう、ゲンタローってばオネーさんにいじわるしちゃメッ! だよ?」
「これは失礼。嘘ですよ」
「なんだ嘘かよ〜」
「新興宗教かと思った……」
いつものごとく騙される帝統の横でそんなことを呟く明歩さん。そこに引っ掛かるのか。
「さ、食べよ食べよー」
お皿をテーブルに置いてソファに座った乱数は、すぐ横の明歩さんに抱き着いた。
「あっ、おい乱数テメー何抱き着いてんだよ! つか狭いしあっち座れよ!」
「えー、ボクもオネーさんの隣がいいもん!」
2人掛けのソファに3人、乱数と明歩さんが小柄といえどやはり狭そうだ。
明歩さんを挟んで乱数と帝統はなんだかんだと言い合いをしているが、その間で彼女は黙々とお皿にシュークリームを取り分けていた。
「明歩さん、そちらの2人はまだ話し足りないようですし、よければ小生の隣に座りませんか?」
「え? ああ……じゃあ、そうします」
帝統の大きい声のおかげで小生の声は2人には聞こえていないようだった。明歩さんは困ったように笑いつつ、さり気なく席を立ちこちらに移動する。
彼女が動けばさすがに2人も言い合いをやめて、驚いた顔でこちらを見てくる。
「なんで幻太郎の隣に行くんだよぉ明歩〜!」
マンガだったら"オロロ〜ン"なんて文字が頭上に浮かんでいそうな様子の帝統を、乱数はまたからかって怒らせていた。
「帝統と飴村さんって、いつもあんな感じなんですか?」
「いえ、今日は乱数が特別ふざけているようですね。まあ、帝統に恋人がいたのは小生も驚きましたし、そもそも帝統はからかいがいがありますからね、気持ちはわかりますよ」
そう答えれば、明歩さんは"仲良しですね"と言って笑った。
「……いきなりこんなことを聞いて悪いですが、貴女、帝統のどこに惚れたんですか?」
明歩さんは一見派手だが、話してみれば礼儀正しく真面目そうな印象を受ける。
「えっと……ラップ、が、その、かっこよくて……テレビで見ただけなんですけど」
「ほう。テレビと言うと、シンジュク・ディビジョンとの試合でしょうか?」
「あ、はい。帝統から聞いてるかもしれないですけど、その試合は兄が出場するって聞いて見てたんです」
「兄?」
全く覚えのない話につい聞き返してしまった。
シブヤとシンジュクの試合に兄が出場している、つまりシンジュク・ディビジョンのメンバーに兄がいるということ。年齢からして神宮寺寂雷ではなさそうだが、まさかあのホストではないだろうな。
しかし不思議そうな表情でこちらをうかがう明歩さんを見ると、どことなく思い出す顔がある。
「……兄というのは、もしや観音坂独歩氏のことでは……」
「はい、――ってか、自己紹介してなかったですよね!? えと、観音坂明歩です」
「はい、小生は夢野幻太郎です」
「あはは……よろしくお願いします」
「おや、これはご丁寧にどうも。こちらこそよろしくお願いします」
明歩さんに差し出された手を握り、握手をした。