アリスくん@
【夢主視点】
以前パチ屋で僕の台をじっと見ていたイケメンに、競馬場で再会した。
見ている限り今日も負けたようで、競馬場を後にする足取りが心無しか重そうだ。
そんな彼になんとなく興味が湧き――まあ、なんとなくというかこれ以上ないほど顔が好みだったからなんだけど――話しかけてみた。
賭場に行くときは女装をして、名前も苗字しか名乗らない。大体の人は僕のことを"ミカド"と呼ぶ。それは別に構わないけど。
とりあえず彼の名前を聞いてみた。
返ってきた答えは"有栖川帝統"。……そんなはずはない。
僕には有栖川帝統という名前の知り合いがいる。近所に住んでいる綺麗な顔の青年だ。目の前にいる彼と見た目は全く似ていない、違うタイプのイケメン。
しかしこの"有栖川帝統"が偽名を名乗っているようにも思えない。
僕のように仕事関係の人達にバレないように、とかいう理由があったりするんだろうか。うん、なさそう。というか職には就いていないんだろう。直感だけど。
僕の知っている帝統くんが自称する職業はギャンブラー。職業なのか?
ともあれそのことを聞いてみれば、この有栖川くん――長いからアリスくんと呼ぼう――も明るく肯定した。そして同類だと思われた。それも別に構わないけど。
ちなみに近所に住んでいる方の帝統くんはアリスちゃんと呼んでも嫌がらなかったから未だにアリスちゃんと呼んでいるし、彼もそれで反応してくれる。
そうそう被る名前でもないだろうに、変だなと思いつつもこの青年、じゃなくてアリスくんにさらに興味が湧いてしまう。
僕のよく行く雀荘に誘ってみれば、彼はホイホイついてきた。
*****
僕はよく女装をして脱衣麻雀に興じている。
生まれ持った強運のおかげでギャンブルではほとんど負けることがない僕は、余らせてるお金よりも自分の身を賭ける方がスリルがあって好き。
中身はともかく見た目は良い方だから、女装をしてみても意外とバレなかった。声も男にしては少し高いし、ちょっと頑張ればまあごまかせた。
麻雀は特に得意でも苦手でもない。生来の引きの良さはどうすることもできないけど、わざと負けることは出来る。
だからわざと負けて、僕が男であることをバラしてみたりしていたら、いつの間にかこのシュミの悪い趣味にハマってしまっていた。
最初の頃は、怒られて殴られたりするのかな、なんてぼんやりと身構えていたりもしたけど、それも次第になくなった。性別をバラすと喜ぶ人がいることに気付いたからだ。
僕は昔から男女とも好きになれるようだったから、同性に好かれるのも歓迎だ。あと綺麗な顔が好きだから、顔が良ければなお良い。
今日引っ掛けたアリスくんは素直そうなイケメンで、ギャンブルが大好きなようだ。
パチンコと競馬は負けてたけど、基本的には運が良いらしい。麻雀では勝っている。
負け続きでどんどん服を脱いでいく僕を見るアリスくんの表情が面白くて、僕はもう彼に夢中だった。
この卓に誘ってくれたオジサンとは顔見知りで、僕が面食いなのを知っているから顔の良い部下を連れてきてくれたんだろう。
連れてこられた彼もおそらくアリスくんと同じく僕が男だと知らないだろうから、オジサンたちにはちょっと申し訳ないけど。
負けすぎると不自然だからときどき最下位を逃れるくらいに調整していたけど、アリスくんはまだ1枚も脱いでいない。結構がっしりしているし良い身体してそうだ。
僕はといえば下は女性用の下着に上はキャミソールだけになっていた。足を組んでいれば股間はごまかせる。別に小さいわけじゃないぞ。
ともあれ冷静な相手なら体格からそろそろ僕の性別に気付く頃で、最初は緊張した表情だったオジサンの連れは、違和感に気付き始めたようだった。
それに対してアリスくんは時々チラチラとこちらを見ては顔を逸らしたり赤くしたりで忙しそうだ。嘘だろ、意外とピュアなのか?
そんなことを考えていたらゲームは終わり、結果はアリスくんが1位で僕は最下位。
アリスくんは喜んでたけど、金を賭けない勝負だったのを思い出して若干しょんぼりしていた。食費と寝床が無いらしい。思ったよりロックな生き様だった。
パチンコも競馬もだめっぽかったもんなあ、なんて思い出してたら、オジサンの連れに話しかけられた。
「ミカドちゃん、キミ、もしかして……」
「ふふ、確かめてみますか?」
「ん? ミカドがどうかしたのか?」
僕たちの会話を聞いていたアリスくんは不思議そうな表情だった。ほんとに気付いてなかったのか。
僕がびっくりしていたら向かいに座っていたオジサンも同じようで、見かねてヒントを与えている。人の性別をなぞなぞにするなよ。
「……?」
オジサンに何を言われたのかまでは聞こえなかったけど、アリスくんは僕をさっきよりも凝視していて、なんだかいたたまれなくなってきた。
「アリスくん、そんなに見られるとさすがの僕も恥ずかしいんだけど?」
「っ、わりぃ! って、"僕"?」
「やっぱり! ミカドちゃん男だったのかよ〜!」
オジサンの連れがバラした。いや、ここまで気づかれないのも初めてだったから、僕も言い時を見失ってたんだけど。
アリスくんはポカンとした様子で固まったあと、
「マジか!?」
と言いながら僕の胸を両手で無遠慮にわし掴んだ。痛いぞ。
「確かに無いとは思ってたけどよ、全然気づかなかったぜ! お前すげーな!」
笑顔がまぶしすぎる。