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・女嫌いの話

【暁視点】

メメントスで偶然裕斗を助け、怪盗団の仲間となってから数日。

そろそろ次のターゲットについて相談するために集まりたかったのだが、俺や竜司、杏とは対照的に、学校では常に人――主に女子――に囲まれている裕斗とコンタクトを取るのは思ったより難しかった。

一応SNSで連絡はしてあるが、どうせ行先が同じなら一緒に行った方が早いだろうということで、俺達3人は放課後を待った。

――のだが、どうやら放課後も呼び出しを受けているらしい。

モテるな、と言えば苦笑いで否定されたが、その謙遜は竜司あたりから怒りを買いそうだ。

先に行っててくれとの連絡を貰ったものの、悪い笑みを浮かべた竜司の提案により尾行することになってしまった。

杏も最初は反対していたものの、なんだかんだで気になっているんだろう。

かくして憂鬱そうな表情で呼び出されたであろう場所に向かう裕斗をそれなりの距離を開けて追う。この動きは怪盗団の活動に活かせそうだ。

幸い気づかれずに目的地まで辿り着いた。社会科準備室だ。

鍵のかかっていないドアを開けて中に入っていく歩。

微妙に閉まり切っていないドアの隙間から3人揃って覗き込んだ。

中にいるのは裕斗と見知らぬ女子だった。

「ねえ……さすがに告白覗くのはヤバくない?」

「んなこと言って、お前も結局着いて来てんじゃねーか」


*****


「裕斗君、どうしてもだめなの?」

先輩らしい積極的な女子は身体を押し付けて歩の腕に抱きつく。

「お願い、1回でいいから」

誘惑するような甘い声で言う。

「いや、だから……そういうのやめてくださいって」

嫌がる裕斗をよそに、その先輩はさらに密着し、裕斗の腕を取った。

「これでもだめ?」

掴んだ裕斗の手を自身の胸に押し当てる。

「なッッ」

声を上げそうになる竜司の口を慌てて塞いだ。

ここからどうなるんだとハラハラしつつも様子を見守る。

すると、

「っ、やめろ!!」

裕斗は女子の手を強く振り払い、真っ青な顔で口元を押さえながら、逃げるように部屋から飛び出していった。

明らかに様子がおかしい。

ドアのすぐそばにいた俺達にも気がついていないようだ。

「追おう」

未だに"もったいねえ!"などと言っている竜司と予想外のことにポカンとしている杏に言う。

裕斗の走って行った方向にあるのは音楽室や各部活の部室、なんだかよくわからない資料室、それからトイレだけだ。

慌てたようにトイレに駆け込んだ裕斗の後ろ姿が見える。

杏には外で待ってもらい、竜司と2人で恐る恐るといった感じにトイレに入った。

一番手前の個室のドアが中途半端に開いていたため、おそらく裕斗はそこだろうと思い声をかけようとしたが、次の瞬間聞こえてきた音で、それは躊躇われた。

嘔吐しているような音だった。

「……ごほっ、ふざけやがって、あのクソ女……っ」

いつもの彼からは想像もできないような暴言に驚いたが、何にせよ今は話せるような状態ではないだろう。

杏と合流してトイレの入り口で待つことにした。

少しすると、スマホが鳴った。SNSだ。

裕斗『ごめん、今日集合遅れるかも』

裕斗からのメッセージはそれだけだった。

暁『問題ない。待ってる』

とりあえずそう返しておいた。

またしばらくすると、ようやく回復したのか、歩がトイレから出てきた。

「大丈夫か?」

そう声をかければ、裕斗は驚いたような表情になる。

「え、なんでこんなとこに……」

「待ってるって言っただろ?」

「つかお前、急に吐くとかどうしたんだよ?」

竜司がデリカシーの無い質問をする。

「えっ、裕斗具合悪いの?」

トイレの中でのことを知らない杏は驚き、心配そうにしながら気遣った。

「つけてたのか。いや……別に、大したことないよ」

「顔引き攣ってるぞ」

「…………」

それから黙り込んだ歩は、やがて、見たこともないようなうんざり顔をして、ものすごく大きな溜息を吐いた。

「嫌いなんだよ、女が」

それだけ言って、もういいだろうと言わんばかりに歩き出す裕斗。

「おい、ちょっ、待てって!」

竜司が裕斗の腕を掴んで引き留める。

「お前、女嫌いって……何でだよ? いつも女子に囲まれてんじゃねーか」

「ああ、あれも嫌だよ、本当は。理由は言いたくない」

完全に開き直っているようだった。いつものにこやかさわやかな登坂裕斗の面影はもはや全くない。

「あー、っと……私、結構絡んじゃってたりしてたけど、迷惑だった……?」

裕斗が女嫌いと聞いてそう反応したのは杏だ。

「いや……別に、個人が嫌いってわけじゃない、けど……」

さすがに思うところがあったのか、裕斗は少し申し訳なさそうな表情になった。

「……ごめん。言い方が悪かった。高巻は、いつもベタベタ絡んでくる奴とは違うってのはわかってる。不快に感じたこともない」

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