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・邂逅3
「ああ、そういえば、そろそろ獅童にお前のことを紹介しようと思うんだけど」
いつものごとく明智の家に入り浸り、テレビをぼーっと見ていたら、突然そんなことを言われた。
「いつ?」
以前から、いずれ獅童には"異世界で見つけた新しい協力者"として紹介すると言われていたし、ちょうどその異世界での戦いにも慣れてきた頃だ。
ペルソナとかいうのも明智のとはタイプが違い、なんだかんだで協調できている。問題ないと判断したんだろう。
ただ、俺のペルソナは精神暴走を起こすようなスキルを持っていなかった。まあ、それ以外にも露払いとかで俺がいれば色々手間が省けるらしいけど……そのへんはそのうち考えればいいか。
"異世界で見つけた"なんて怪しさしかない言い分が通るのかはわからないが、そのあたりは明智が口先で何とかしてくれるだろうし。
「今週はアイツの予定が埋まってるみたいだから、来週の頭くらいかな。空けとけよ」
「はいはい」
「ハァ……本当にわかってるのか? 獅童だって馬鹿じゃねえんだ。妙なことしたらすぐ――」
「わかってるよ。シドーさんにとって都合の良い使えそうなガキになればいいんでしょ?」
とはいえ、来週の頭となると怪盗団の方にも連絡を入れておかないと、急にメメントスに行くとか言われかねないな。
「めんどくさー……」
「…………」
「怪盗団に連絡するのがめんどくさいんだよ」
明智からの無言の圧力に負けるのは癪だが、こいつもこいつでめんどくさいので言い訳をしておく。
人にスパイなんてさせておいて、随分上から目線だな。
まあ、さすがに獅童に怪しまれるのは俺としても都合の良いことではないから、ここは明智の言う通りにしておこう。
*****
・シリアスラッキースケベ
【明智視点】
今日も収録の仕事終えて、帰宅してすぐシャワーを浴びようと脱衣所のドアを開けた。
疲れていたから、灯りが点いてるとかそんなことには気づかなくて、飛び込んできた目の前の光景に思わず絶句した。
「…………吾郎さんのエッチ! とか言うべきだった?」
困ったような表情でさっさとバスタオルで身体を隠した全裸の登坂。
ふざけてるのか、と言い返したくなったが、そんなことよりも気になることがあった。
「お前、その身体どうした?」
まあ、答えが返ってくるとは思っていなかったが。
登坂の背や腹にはいくつも青痣ができていた。明らかに自然にできるものではない。
階段から転がり落ちでもしたか、あるいは殴られたか。おそらく後者だ。
「別に、たまたまだよ。タイミングが悪かっただけ」
明らかに言葉が足りないだろう。
「なんだ、お前、虐待でもされてるのか?」
「"虐待"ね……まあ、顔が無事だったからまだマシだよね」
世話話をするようなトーンでそう言った登坂は、不意にニヤリと笑った。
「なに、気になる? 俺のこと」
「……気にならねえよ。それより早く出ろ」
「えー、俺もこれからなんだけど」
「ここは俺の家だぞ」
「明智って、なんかめんどくさいよね。俺もう脱いじゃったし、後から入ってくれば? 風呂、そこそこ広いじゃん。2人くらい入れるでしょ」
「冗談だろ。ハァ……もう何でもいいから早くしてくれ」
面倒などと、こいつにだけは言われたくないが。
しかし、からかいはしても人を本気で怒らせない妙な愛嬌があるのは事実だった。そこも使える特性だと思っていたが、今のところ俺にしかそんな面は見せていない。
もう考えるのも面倒になって、登坂を置いて脱衣所から立ち去った。
やっぱり面倒なのはあいつの方だ。
*****
登坂がシャワーを浴びている間に学校で出された課題でも片づけておくかと思い、机に広げた。
最近はテレビ出演の仕事も増えてきているから出席日数が足りなくなりそうで、特別課題を出してくる教科もある。
まあ、特に難しいものでもないから大した手間ではないが。
少しして、課題を3分の1ほど終えた頃。登坂がリビングに戻ってきた。
「……なんだ、意外と早かったな」
「え? 早く出てほしかったんじゃないの? 俺結構急いだんだけど……」
訝しげな表情でそう返してくる登坂。
こいつのこういうところは少し苦手だった。
自分勝手なようでいて、妙に遠慮したり気遣ったりする。
*****
リビングに戻ると、床に座ったままソファに寄りかかって寝ている登坂がいた。
「……ったく、寝るならテレビ消せよ」
なんて、言っても返事はないのだが。