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・邂逅
【暁視点】
斑目が改心してから少し経ったが、相変わらず学校では腫れもの扱いだった。
今では怪盗団の仲間もいるし、特に不便もなかったからそれは別にいいのだが、今日は珍しいことが起こった。
「あ、来栖くん、これ」
そう言って、プリント片手に俺の席を訪れたのはクラスメイトの男子――確か名前は登坂裕斗。第一印象はまさに優男だ。
「先生から。渡し忘れたって」
「……あ、ああ。ありがとう」
俺がプリントを受け取ると彼は自分の席へ戻って行った。
「普通に話しかけてくる人も出てくるようになったんだ。良かったじゃん」
前の席で見ていたらしい杏はそう言った。
「ああ。でも……」
「登坂君のこと、気になるの?」
「いや……なんでもない」
「? 変なの」
さっきプリントを渡しに来た彼――登坂に、なんとも言えないような、しかし何か違和感のようなものを感じた。
悪意や敵意を感じるわけでもなければ、怖がられているわけでもない。むしろ態度は好意的だった。
だが彼と目が合った時、にこやかな表情とは裏腹に、探られているような、あるいは品定めでもされているかのような、そんな感覚があった気がした。
*****
・素顔
朝の教室が少し騒がしくなった。どうしたのかと騒ぎの中心である女子の集団の方を見ると、その中で囲まれている歩の姿が見えた。
「登坂君、その顔どうしたの!?」
「ケガしたの? 大丈夫?」
と、口々に女子たちから心配するような言葉をかけられている。
それもそのはず、彼の整った顔の左半分には大きなガーゼが貼られていた。
「いや、ちょっとぶつけちゃって。見た目ほど大したことじゃないから大丈夫だよ」
「なんだぁ良かったー」
「あ、私絆創膏大きいやつ持ってるから、取り換えるなら言ってね!」
「あはは、ありがとう。じゃあその時はよろしくね」
そんな感じで爽やかに女子たちをあしらう歩はいつも通りだ。
「どうしたんだろ、アレ」
「放課後集まるし、聞いてみるか」
だが俺たちにはどうも疑うクセがついているのか、ただぶつけただけだとは思えなかったのだ。
*****
「裕斗、その顔はどうした? 美しくないぞ」
連絡通路で待ち合わせていた祐介は、開口一番にそう言った。
「美しくケガなんかできるかよ」
今に始まったことではないが、学校にいるときと普段の裕斗はまるで別人だ。女子に囲まれている爽やかなイメージとは違い、気だるげでやや口が悪い。
「てか、ホントそれどうしたの?」
と、心配そうに聞く杏に、裕斗は微妙な顔をした。
「だから、ぶつけただけだって」
ほら、と言いながらめくられたガーゼの下には痛々しい青あざが残っていた。
「グロ……」
竜司が正直な反応を見せた。
だが声には出さないだけで杏や祐介、俺も含めて同じような表情になっている。
「……そのうち消えるし、別に気にする必要ないでしょ」
裕斗自身は特に気にしていないようだったが、俺たちは慣れるまで時間がかかりそうだ。