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・海
8月30日 昼間 海
海に来るのは初めてだった。
……が、思った以上に俺には合わないと、率直にそう思った。とりあえず暑い。
水着は持っていなかったので前もって買っていた。いや、暁と竜司に連れられて買わされた。
まあ、そこまで高いものでもなかったし、奇抜な柄でもない。とはいえ、今日が終わればもう一生着ないだろうと思うと痛い出費だ。
明智に言えば、経費で落としてくれるだろうか。
ともあれ、あまり身体を露出したくなかったから、祐介と同じくパーカーを羽織った。
着替えに行った女子たちを待っている間、竜司は落ち着きなくそわそわしている。そんなに楽しみか。
俺は女の裸に近い恰好なんて、相手が誰でも見たくない。
出だしから割と憂鬱な気分だった。
「調子悪いのか?」
横にいた暁が言う。
「いや、暑いだけ」
「水分補給はちゃんとしとけよ」
と、今度は足元から声が聞こえてくる。モルガナだ。
「黒くて暑そうだな」
「ああ……太陽光吸収しまくりだぜ……」
若干哀愁の漂う背中を見せながら、モルガナはパラソルの下に避難していった。ネコも大変だな。
しばらくすると女子たちも姿を見せ、そして竜司のテンションもさらに上がる。
双葉が頭をタオルだか包帯だかでぐるぐる巻きにしていたのには、さすがに驚いた。
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・夕暮れ
・母親の仇をとるために怪盗団に入りたいという双葉
双葉の母親を殺させ、認知訶学の研究内容を奪ったのはおそらく獅童だ。
聞いたわけでもないし、そもそも双葉の母親がいつ死んだのかもわからない。だが俺はほぼ確信していた。
居心地が悪い。
俺は別に嘘をつくのが特別得意なわけでもないし、人を貶める趣味もない。ただ明智に協力すると決めて、その内容がたまたま怪盗団へのスパイだった。
それは"探偵"であり、事件の実行犯である明智にはまだできないことだから。
怪盗団のメンバーに情を移したつもりはない。実際、俺は彼らに対してさほど良い印象も悪い印象もなかった。ただこの先の計画の下準備として利用しているだけだ。
……早く帰りたい。
自宅じゃなく、明智の家にだけど。