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・付き合って初めてヤるだけのつもりがシリアス身の上話になってしまった回

【蓮視点】

夜、俺の頼みで制服のままルブランを訪れた裕斗さん。

彼の腕を引いて屋根裏に上がり、ソファに並んで座った。

「明人さん、どうかした?」

明らかにいつもより口数が少ないし、表情が硬い。

「どうもしてないけど……え、なんか変だった?」

どうやら無意識らしい。

「変じゃないけど」

明人さんとは付き合い始めて3週間。

何回も断られ続けて、しかし諦めずにいたらようやく折れたといった感じだ。

「ていうか雨宮くん、なんで制服のままが良かったの?」

「似合うし、よく考えたら現実でその格好してるとこ、あんまり見てないと思って」

彼の怪盗服は俺たちみたいな衣装っぽさはなく、警察官の制服そのままだった。

「物好きだね」

困ったように笑う裕斗さんだが、嫌がられてはいないようだ。

「物好きでいい。好きだ、裕斗さん」

そう言って、隣に座る裕斗さんの手を握り、肩をこちらに引き寄せる。

すると裕斗さんの体が強張った。

「雨宮くん、あのさ……」

「どうした?」

「いや……」

妙に歯切れの悪い裕斗さんの様子に、思わず首を傾げた。

「いや、なんでもない。よし、ベッド行くぞ」

「えっ」

何かの覚悟を決めたような真剣な表情でベッドに誘われた。

誘われたのは嬉しいからついて行くけど、唐突だな。

――なんて思っていたら急に押し倒された。

「待ってくれ、俺が抱かれる側なのか?」

「……やっぱ無理?」

「無理っていうか……俺も裕斗さんのこと抱きたいし」

どっちも男なのだから、ここは公平にジャンケンで――と提案しようと思ったが、やはり今日の裕斗さんはどこか様子がおかしいことに引っ掛かる。

「もしかして、無理してる?」

「…………」

俺を押し倒したまま、わかりやすく視線を泳がせる裕斗さん。

これは何かあるな。

「理由があるなら教えて欲しい。まあ無理にとは言わないけど」

俺がそう言うと、裕斗さんは上からどいてベッドの上にあぐらをかいて座った。

俺も起き上がって同じようにしつつ、裕斗さんの様子を窺った。

「……………………苦手なんだよ」

「え?」

視線を外したまま、小さい声でそう言われた。

「あっ、いや、雨宮くんのことじゃなくて」

「え、あ、ああ、なんだ、よかった……」

一瞬悲しくなったが、どうやら俺が原因ではないらしい。安心した。

「なんていうか……性的なこと全般がさ、ダメなんだよね」

「そうだったのか」

珍しいな、と単純に思った。

確かに裕斗さんから下ネタとか女の話なんて聞いたことないけど。

「――まあ、雨宮くんになら言ってもいいか」

と、独り言のように呟かれた言葉とともに、今まで外されていた視線が合った。

「俺、小さい頃レイプされたことあってさ、それがトラウマになって、そういうの全部ダメになっちゃった」

予想外の言葉に、理解するまで時間がかかった。

「まあ、信じられないかもしれないけど」

「いや、信じる。その、信じたくはないけど」

「だろ? 嫌になったでしょ、俺のこと抱くなんてさ」

「そういう意味じゃない! 裕斗さんが嫌なら抱かないけど、そうじゃなくて――」

裕斗さんに対しての嫌悪感なんて全くなかった。

俺にあるのは犯人への怒りとか、そんなことを話してくれた裕斗さんへの、こう、なんともいえない気持ちとか心配とか、そういうものだ。

「いいから、もう、わかった。雨宮くんの言いそうなことはなんとなくわかる」

「ほんとにわかってるのか?」

「当たり前だろ。俺だって別に、君が諦めてくれないから仕方なくで付き合ったわけじゃない。君がどんな奴かは、まあ多少はわかってるつもり」

「じゃあ俺が何て言おうとしたか当ててみて」

「は?」

湿っぽい空気は裕斗さんに似合わない。俺は何とか明るく見えるように振る舞った。

「……君の性格からすると、人の痛みには結構共感する方だね。それに相手の立場になって考えられる。俺は何でもないことみたいに言ったけど、トラウマになるくらいだ、本当はそうじゃないことも察しがついてるな」

裕斗さんは苦笑した。

「雨宮くんは今、犯人に対して怒りを感じてる。それから俺に対しては、なんだろうな……心配?」

「…………」

「あれ、違った?」

「いや、そんなガチで当てにくるとは思ってなくて」

全部合ってるけど。これが刑事の分析力か。

「でも俺が聞いたのは"何て言おうとしたか"だから、俺の勝ちだな」

まあ全部合ってたんだけど。

「勝ち負けあったの、これ……?」

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