キミだけが知る本当の私 (喜八郎)


その日喜八郎は珍しく穴を掘っていなかった。
しかしその代わりに何かを探しているようだった。
ぼけっとしているような表情なのにきょろきょろ顔を動かし、木の上や地面のくぼみを見て、しまいには井戸の中まで覗いている。
その様子を不思議そうに眺める生徒や教師などはいるが特に声をかけることは無い。
喜八郎が穴を掘っていないだけで、学園はすこぶる平和だ。
触らぬ神にたたりなしとばかりに、誰も関わるつもりは無いようだった。

 そんなこととは知らずに、しばらく学園をうろうろしていた喜八郎は目的のものを大きな岩の陰に見つけて、勢いよく飛びつき、飛びつかれた何かはうめき声を上げた。

「りん先輩見つけたー」

「き、はちろ……くるしっ」

「ずっと探してたんですよ。今日はまた、どうしてこんなところにいるんですか」

「ちょっと休憩を……って、喜八郎、ひとまずどいて……首が、絞まってる」

むっとしながらも首に絡めていた腕をどかして今度は体に巻きつけるとりんの胸元に顔を寄せた。
ぐりぐりと頭を押し付ける喜八郎を困ったような視線で見つめるりんだったが、ふわふわと揺れる髪を撫でたときの手触りの気持ちよさと、喜八郎の笑顔に絆され、結局いつも喜八郎の行為を受け入れてしまうのだった。

「喜八郎、今日はどうしたの」

「りん先輩に会いたかったんです」

「何かあった?」

「何か無いと、会いに来ちゃいけないんですか」

「そんなことは無いけど、珍しいなって」

「僕は毎日でもりん先輩とくっついていたいのに、りん先輩は僕とこうするの、嬉しくないんですね」

さっきまでよかった機嫌が段々と下っていくのを感じたりんは、自分の言葉を後悔した。
喜八郎が気分で動くのなんて今に始まったことじゃ無いのに、と。
しかし、後悔したところで言葉は取り消せない。
りんは自分の胸元でじとーっと恨めしそうな視線を向ける喜八郎に、誤魔化すようにへらりと笑った。

「喜八郎が穴掘りよりも私を優先してくれて嬉しいよ」

「……嘘だ。取り繕うみたいに言われたって、機嫌よくなんかならない」

「本当だよ喜八郎。私、いつも蛸壺にやきもち焼いてるんだから。今日は構ってくれるから嬉しいし、びっくりしてる」

ふふ。と、笑ったりんは喜八郎の前髪を右手で上げると、露わになった額に唇を寄せた。
ちゅっ。と小さい音を立てて顔を離したりんは持ち上がったままになってしまった喜八郎の前髪をちょいちょいと撫でつけ、癖付いちゃったね。なんて笑ったが、喜八郎がその手を掴んで止めさせた。

「そんなのじゃ、誤魔化されないから……」

頬を微かに膨らませて、ぷいと横を向いてしまった喜八郎に、一瞬困惑の表情を浮かべたりんだったが、その頬が次第に赤く染まっていったのを見て、顔を綻ばせる。
そして、胸にこみ上がった想いをぶつけるように喜八郎の頭を強く抱きしめた。

「喜八郎、大好きだよ」

その言葉を聞いた喜八郎は不機嫌を装っていたのも忘れ嬉しそうに顔を歪めながら、もごもごと声を出した。

「僕だって、大好きですから」




END

20140722

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