どうしてこうも愛しいの(秋山)
「だからなんの話し? 俺はりんちゃんを誘ってるんだよ」
「私の前は誰に断られたんですか。そして私の次に誰を誘うんですか。私を誘うだけ時間の無駄ですから、別の女性を誘ってください」
普段は俺に誘いに嬉しそうにも嫌そうにもしないりんちゃんが今日はやけに突っかかってきた。
だいたいは俺がちょっかいを出してもただ流されるのに、つんつんした態度でちょっと悲しい事を言われる。
「ねえ。どうして怒ってるの」
「怒ってないです」
「じゃあ、どうして不機嫌なの。いやなことがあったならさ、俺がいっぱい甘やかしてあげるから。ね。美味しいもの食べにいこう」
「……行きません」
そっと頭にのばした手は綺麗に交わされてしまった。
いつもはこの程度のスキンシップはぎりぎり許してくれるのに。
俺に無関心だったけど、それでもご飯の誘いに乗ってくれたり、りんちゃんの買い物に付き合ったりと、それなりに仲を深めてきたはずだったのに、どうして急にこんなに嫌われてしまったんだろう。
「俺、気がつかない内に何かした?」
「別に、なにも。私のことは気にしないで、別の人と楽しんでください」
「それ、さっきも言ってたけど、どういうこと?」
「昨日の夜、一緒に歩いてた背の高い女性。その人誘ったらいいんじゃないですか」
「昨日……? ああ、お店の子だよ。偶然はち合わせたから店まで一緒に行ったんだ」
「じゃあ一昨日のスーツの似合う子と行ってきてください」
「あの人はスカイファイナンスの昔のお客さん。久しぶりに会ったからご飯行っただけ」
「その前の日の、ふわふわした髪の女の子」
「その子は……たまたまバーで知り合ってカラオケ行こうってなっただけで」
「ほら。では、その子を誘って行ってきてください」
それじゃあ、と背を向けてしまったりんちゃんの腕を慌てて掴んで再度向き合うと、心底嫌そうな目を向けられてしまった。
その視線に怯みつつも、ちょっとの期待を込めて問いかけてみる。
「あのさ。さっきからりんちゃんは、俺がその子たちとデートしてるって勘違いしてるの?」
「勘違いじゃなくて実際そうじゃないですか」
「じゃあさ、りんちゃんは俺が他の女の子とデートしてるから怒ってる?」
期待しているのを悟られないように、決して自信過剰に聞こえないように。
そっと尋ねてみればりんちゃんは眉をしかめて驚きと怪訝の色を見せた。
「どうして、秋山さんがデートして私が怒るんですか」
「どうしてって、やきもち。とか」
「なに言ってるんですか。やきもちじゃありません! やきもち焼く理由なんてないじゃないですか」
ムキになったりんちゃんは俺が掴んだままだった手をぐいぐい引いて抵抗した。
その必死さは、肯定を表しているようにしか見えなくて、俺の口元はどんどん緩くなっていく。
「へえ。そっかそっか。やきもち焼いてくれたのかあ。嬉しいなあ」
「違いますって。ちょっとにやにやしないでください。やきもちじゃないですから」
「わかったわかった。可愛いなあもう」
嬉しくなって無理矢理腕の中に閉じこめるとりんちゃんは更に激しく暴れた。
しかし、俺よりも小さいりんちゃんの抵抗なんて簡単に押さえ込めてしまう。
りんちゃんもそれに気づいたのか、ただ、疲れただけなのか、さっきまでが嘘のように動かなくなってしまった。
「りんちゃん?」
腕の力を緩めて顔を見ようとのぞき込んでもりんちゃんは俯いて目を合わせてくれない。
呟くみたいに「やきもちじゃない」と言ったのが聞こえて苦笑した。
「んー……まだ言う」
「だって、本当にやきもちじゃないんですもん」
拗ねた口調が可愛くて俯く頭にキスすると、恨めしげに顔をあげた。
「勘違いしないでください。私は、ただ」
「ただ?」
「私はただ、秋山さんが私しか誘う人いないって言ってたから可哀想で、たまにならと思って誘いに乗っていただけなんです。でも、秋山さん見かけるとだいたい女の人といるし。別に私が気にしてあげなくても一緒にいてくれる人いるんだな。って思ったらちょっと……悔しくなっただけです」
どうしてりんちゃんはこうも無自覚に喜ばせてくれるんだろう。
我慢なんて最初からあまりしてなかったけど、もう、耐えられそうにない。
「りんちゃん。本当に、可愛い」
「何がですか。ばかにして。もう、離してください」
体を離そうと手を突っぱねるりんちゃんを逃がさないように首元に鼻先を埋めると、りんちゃんの匂いをいっぱいに吸い込む。
「昨日はね、りんちゃん誘ったのに断られちゃって、暇だしたまには店に顔出そうと思ってた所でうちのキャストとはち合わせたんだ。一昨日は、何回りんちゃんに電話しても全くつながらなくて、何処かで会えないかなってフラフラしてたら昔のお客さんに声かけられたからご飯行って、その前はりんちゃんと約束してて浮かれてたのにドタキャンされちゃったから、やけ酒飲んでた所をそのふわふわした子が慰めてくれた」
最後、音を立てて首にキスして離れるとりんちゃんは擽ったそうに身を捩っただけで、意外にも拒否の声を上げなかった。
「いつだって、俺は一番にりんちゃんを誘ってるし、断られて別の子誘ったりなんかしてないんだよ。だからまた、可哀想な俺の誘いに乗ってほしいな」
「……しょうがないから、今日はご飯お付き合いします」
「よし。じゃあ、行こうか」
調子に乗って手を取り、指を絡め歩き出すと、いつもなら払われる手に今日は答えるように力がこもった。
嬉しさと驚きでりんちゃんを見ると何でもないように前を見るその頬が微かに赤く染まってる。
「りんちゃんって、本当、たまらないよね」
俺のつぶやきは聞こえなかったようで、聞き返すりんちゃんに話を逸らすように頬にキスすると「もう」と怒ってしまった。
それでも離れない手や、嫌がられないキスに距離がかなり縮まっているのを実感して、俺の口元はだらしなく緩みっぱなしだった。
りんちゃんが頑張って少し素直になってくれたから、俺も勇気を出して、伝えなくちゃいけないな。
「俺ね。本気でりんちゃんが好き」
数秒後、真っ赤な顔で「なに言うんですか」と口では本気にしないような声を出しながら、それでも嬉しそうなりんちゃんの微かな笑顔に、心臓を鷲掴みされた。
END
20140421
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