2日
今日は伯寧様の提案で街に出かけることになった。忙しい伯寧様と出かけるなんて滅多にできないから、柄にもなく浮かれてしまい、つい準備に時間がかかってしまった。新調した服で身を包み、お気に入りの装身具を身につけて伯寧様の待つ馬車へと向かう。馬車の中にいた伯寧様は普段通りの格好だったから、私だけ気合が入っているようで少し恥ずかしかった。けれど、目が合った時に伯寧様が「いつもより綺麗だね」と言ってくれた事が何よりも嬉しくて、頑張って準備した甲斐があったなと口元が緩んだ。
一日中屋敷にいる私には窓から見える街並みがすごく新鮮で、ずっと外を見ていた。たまに伯寧様が街や店の説明をして下さるから、もっと興味が湧いて立ち寄りたくなる。けど街に出られる時間は限られているから、いちいち寄り道はしていられないと思い、ぐっと堪えた。その時、不意に伯寧様の手が私の髪に触れた。びっくりして振り返ると、伯寧様はすぐに手を引いた。
「この簪、まだつけてくれているんだね」
「ええ。だって伯寧様から初めて頂いた物ですから」
「今日もっと良い物があったら買おうか」
「いえ、大丈夫です。私はこれが一番好きなので」
申し訳無さそうに言う伯寧様の手にそっと自分の手を重ねた。今日身につけている簪は、伯寧様と結婚してから初めて頂いた物だから、一番思い入れのあるものだった。結婚当初に周りの助言で買ったと言っていたから、今はもっと私に合うようなものを選びたいようで、事ある毎に新しいものを贈りたがっている。だけど私にはこれで充分だから、その度に断っている。
目的地に着いたようで、馬車が止まった。扉が開き、伯寧様が先に降りて、手を差し出した。私はそっとその手を取って、馬車を降りた。
20210302