3日*

 ひな祭りだからといって特別に何かをするわけでもないけど、これは欠かせないと思い、わざわざ仕事の休み時間に和菓子屋さんに行って桜餅を2個買ってきた。喧嘩にならないように、ちゃんと2個。夕飯を食べ終えて、緑茶と一緒に買ってきた桜餅を出した。伯寧は出された桜餅を不思議そうに見たあと、私に視線を向けた。

「これは?」
「桜餅だよ」
「いや、見ればわかるけど、何で2種類あるんだい?」

 伯寧が指差したその先には、所謂関東風と関西風の桜餅が1個ずつお皿に乗っていた。私はソファに座り、2個買った経緯を話し始める。

「関東風と関西風で喧嘩にならないようにどっちも買ってみた」
「私と食べ物で揉めたことはあまりないだろう」
「だからこそ!初めての大喧嘩になるのも嫌じゃない?」
「食べ物に関して君と大喧嘩する気はないよ」

 伯寧はため息をついていたけど、私としては重大な問題なのだ。別の食べ物だけど、東西論争が白熱したことがあったから、なるべく避けたかった。伯寧の様子からしてこだわりはなさそうだけど、せっかく買ってきたのだからどっちが好きか気になる。

「食べたい方指差そう」
「私はどっちでもいいから、君の好きな方を食べるといいよ」
「じゃあせめて好きな方を指差そう!」

 私が頼み込むと、やれやれといった様子の伯寧がいいよと言ってくれた。私のせーの、という声と共にお互いが指差したものは、関西風の桜餅だった。

「なんだ、伯寧もこっちが好きなんだ」
「どちらかと言えばね。こっちは君が食べていいよ」
「えー、せっかくなんだから半分こしようよ」

 ソファから立ち上がり、2つの桜餅を台所まで持っていき、包丁で半分に切った。関東風と関西風を半々にお皿に乗せてソファに戻る。予め聞こうかとも考えたけど、これをやりたかったから何も聞かずに2種類用意したのだ。これで伯寧の好みがわかったから、来年は関西風を2個買うことにしよう。


20210303

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