4日
仕事が立て続けに入った為にずっと城に籠もりっぱなしだったから、数日ぶりに屋敷に帰ってこれた。使いに今日の夜に帰ると連絡を入れさせたけど、思ったよりも早く帰れたから、彼女を驚かせてしまうかもしれない。その驚いた顔を早く見たいと思い部屋を探し回ると、離れの池が見える部屋で長椅子に寄り掛かって寝ていた。机には針が刺さったままの布が無造作に置かれていたから、裁縫の途中で眠気に勝てなくなってしまったのだろう。気持ち良さそうに寝ていて、私が近付いても起きる気配がない。驚く顔を見たかったけど、寝顔を見るのも久しぶりだったからじっくり堪能しようと思い、彼女に寄り添うように長椅子に寄りかかった。しばらく眺めていたけど、あまりにも無防備なその顔につい触れたくなり、頬に唇を落とそうとした時、「ははうえー!」と元気な声が響き渡った。ぱっと顔を上げると、竹簡を抱えた偉が部屋に入ってきて、私と目が合うと「ちちうえ!」と胸に飛び込んできた。それを受け止めて小さな体に腕を回すと、彼女に話そうとしていたことを私に話そうと口を開いた。私は口元に人差し指を立てて、しーっと諭す。
「母上は今眠っているから、内緒話の声で喋るんだよ」
偉は彼女を見た後に大きく頷いた。抱えていた竹簡を広げて、みて!と口を動かす。そこには字の練習をしていたのか、色んな字が書かれていて、よく見ると前に見た時よりも字の種類が増えていた。
「上手に書けているね。この字は前に書けなかったやつかな?」
いくつか指差すと、偉は嬉しそうに頷いた。言葉を続けようと口を開きかけたけど、彼女を見てから慌てて手で口を押さえた。小さな声で喋れば問題ないのに、声量を抑えられないと思ったのか、自分が喋ったら起こしてしまうと考えたのか、自分は喋ったらいけないと判断したらしい。どちらにせよ母思いで賢い子であることには間違いないから、私も静かに偉の頭を撫でた。
人の気配を感じたのか、彼女が少し体を動かして、「んん…」と声を上げる。私は偉の耳元で小さく話しかけた。
「母上が目を覚ましたら、先程の竹簡を見せるんだよ。もう声を出して大丈夫だからね」
「はい!」
偉の声が聞こえたせいか、薄っすらと目が開いた。起きて目の前に偉と私がいたらどんなに驚くだろうか。彼女の反応を楽しみにしながら、竹簡を広げて待つ偉の肩を支えた。
20210304