「自分の前世が何だったのか考えたことある?」
「前世?うーん、あまり考えたことないな」
私の唐突な質問に伯寧は缶ビールに口をつけたまま少し考えていたけど、すぐに諦めて机に置いた。現実脳な伯寧の事だから答えはわかりきっていたけど、少しだけ興味があったから聞いてみたのだ。唐突に聞いた事だけど、一応昼に家で映画を見てから考えていた事だった。
「君は何だったと思うんだい?」
「私は何だろうな…。人間だったらいいな」
「歴史上の人物とか言うのかと思ったけど、随分とざっくりしているんだね」
確かに、例えばの話だから好きな歴史上の人物の名前を挙げてもよかった。自分から聞いておいて、いざ自分に振られると面白い答えが出てこないなんて会話として成り立たなくなってしまう。私もさっきの伯寧みたいに缶チューハイに口をつけたまま考えてみたけど、やっぱり人間以外思いつかなかった。
「人間なら何でもいいけど、前世でも伯寧と何か関わりがあったらいいな」
「それはかなり低い確率だと思うけどね」
「わかってるけど。ほら、袖振り合うも多生の縁とか言うでしょ」
「確かにそういう言葉はあるけどさ、縁なら何でもありと考えると良い関係じゃなかったかもしれないよ」
「…確かに」
あわよくば恋人や夫婦、家族や友達でもいいかなと思っていたけど、悪縁の可能性は考えていなかった。戦争中に敵対していたかもしれないし、仇の関係だったかもしれない。そんな関係性を全然想像できなくてまるでパラレルワールドみたいだ。
「仮に君との縁がずっと続いていたとしても、人間じゃなかったかもしれないしね」
「そっか、蛇だったかもしれないよね」
「そう、蛇だったかもしれないし、蛙だったかもしれない」
伯寧は言いながら立ち上がり、空になった缶を持って冷蔵庫へと向かった。新しい缶ビールを取り出していたから「私にも何か適当に缶チューハイ取って」とお願いした。何かの缶チューハイを出したのは見えたけど、まだ冷蔵庫を漁っているのはきっと新しいつまみを探しているに違いない。
「私が蛙で伯寧が蛇だったら私食べられちゃうね」
「そうだね。でもその時点で私が君を食べたという縁ができるからね」
「んー、嫌だけどしょうがないか」
伯寧が蛇だったら随分と大きな蛇なんだろうなとか、そんなのに会ったら逃げられずに一瞬で食べられちゃうなとか考えていたら、いつの間にか伯寧が戻ってきていて頼んでいた缶チューハイを渡された。
「でも、君と私がどんな種族だったとしても、私は君を見つけると思うよ」
「えっ」
「もちろん恋人や夫婦だったら一番良いけれど、対立しているかもしれないし、種族が違ったら捕食の対象かもしれないし、人間と愛玩動物かもしれないし、関係性はわからない。でも、君を見つけ出すと思う。縁があるとしたらそういう事なんじゃないかな」
伯寧の言葉に暫く思考が止まった。伯寧がそこまで考えて答えてくれると思っていなかったから、とてもびっくりしているのと、純粋に嬉しい気持ちが入り混じっている。その結果ちょっとだけ泣きそうになったから、ごまかすように慌ててプルタブを上げてお酒を流し込む。何の缶チューハイか見ていなかったけど、ジンの苦味とライムの爽やかな味が口の中に広がった。
20210308