10日
大人になったら誰かのお嫁さんになる。きらびやかな衣装を身に纏い、周りから盛大に祝福される。女なら一度は憧れる姿だ。だけどそこには私の気持ちは全く関係なくて、政治的な事だったり家同士の繋がりの為のものだというのは母や周りを見ていたら嫌でもわかる。この前だって隣の家の同い年位の子が将軍様のご子息の元へと嫁いで行ったけど、家を出る時のその顔は涙で濡れていて、せっかく綺麗に施した化粧が台無しになっていた。理由はわからないけど、その子にとってこの婚姻はそれ程嫌な事だったのだろう。そう思うと私の母はまだ幸せそうに過ごしているけど、いつだったか「本当に好きだった人とは結ばれないものよ。決められた運命でも、その中から幸せを見つけるの」とぽろっと零した言葉を今でも鮮明に覚えている。私には本当に好きな人というものはいないけれど、まだこの家を出たくなかったし、未熟者の私が見知らぬ家で切り盛りしていける自信がなかった。だけど時は待ってくれないもので、あれよあれよという間に私の嫁ぎ先と日程が決まり、今は顔合わせの為に一家で訪れている。お相手の方は良家のご長男のようだけど、噂によると少し変わったお方らしい。優秀な方らしいけど、身なりには無頓着で、常に自分の部屋に籠もって書物を読み漁り、かと思えば何も言わずにふらっと何処かへ行ってしまう、そんなお方だと聞いていた。どんな仙人みたいなお方が現れるのかとあまり良くない好奇心で待っていたけど、「すみません、遅れました…!」と慌てて現れたそのお方は立派な体躯をしていて、まずその時点で予想外の外見だった。服の紐がぐちゃぐちゃだったり、髪も適当に纏められてあちこちにはねていて、身なりに無頓着とはこういうことかと理解する。先方のお母様が叱って慌てて直していたけど、正直なところあまり綺麗に直ってはいなかった。失礼とは思いつつもその様子をぼーっと見ていたら、ばっちり目が合ってしまった。すぐに反らそうとしたら、名前を呼ばれた。挨拶はまだしていなかったから名前を知っているとは思わず、息を飲む。
「満伯寧と申します。今後ともよろしくお願いします」
その優しげな微笑みに心臓が早くなる。顔も熱くなっていくのがわかったから、見られたくなくて返事も曖昧に頭を下げた。
20210310