13日


 ある日の夕食時、伯寧様との他愛もない会話を終えて少しの沈黙が流れた時に前から考えていた事を思い切って切り出してみた。

「あの、伯寧様にお願いがあるのですが」
「ん?どうしたんだい?私にできる事なら何でも聞くよ」
「私に字を教えていただけませんか?」
「え?字を?」

 伯寧様は箸を止めてぽかんと不思議そうな顔をした。伯寧様に頼み事をするのは滅多にないから驚いたんだと思う。私も食器をお膳に置いて姿勢を正した。

「少しの読み書きはできるんですけど、もっと知りたいなと思いました。もっと文字が読めるようになれば何か伯寧様のお役に立てるかもしれませんし、字を書けるようになれば子供ができた時に教えられますし」

 伯寧様はそうだなぁ…。と暫く悩んでいる様子だった。私は教えてもらえたらいいなという気持ちなので、駄目ならば仕方がないと諦めるつもりだ。それを伝えようと口を開こうとした時、伯寧様が先に口を開いた。

「毎日は無理かもしれないけど、それでよければ」
「いいんですか?」
「知識をつけることは悪いことじゃないからね」
「ありがとうございます!」

 伯寧様が承諾してくれたことはもちろん、これから伯寧様と勉強することで一緒に過ごす時間が増えることにも嬉しくなり、頬が緩んだ。


 あれからすぐに伯寧様は時間を作って下さり、夜寝るまでの時間に少しずつ教わるようになった。竹簡を読みながら文章の意味を教えてもらい、更にその文字を真似して書いていった。全然知らない言葉が多くて最初は戸惑いばかりだったけど、理解できる言葉が増えてくると段々と楽しくなってきた。今日も教わったことを竹簡に書き写し、それを何度も見直して文字と言葉の意味を頭の中に入れる。

「今日も凄く上手に書けているよ」
「本当ですか?」
「うん。それに飲み込みもとても早い」
「それは伯寧様の教え方がお上手だからですよ」

 事実、伯寧様の説明はとてもわかりやすい。私が少しでも難色を示したら、すぐに別の言い方や例え話を用いて説明してくれる。だから何も知らない最初の頃でも何とかついていくことができた。

「それに、伯寧様がこうやって褒めて下さるのが嬉しいのでたくさん頑張れます」

 そう言うと、伯寧様は笑って頭を撫でてくれた。それがまた心地良くて私もつられて笑顔になる。褒めて欲しいというのは下心だけど、伯寧様がここまで褒めてくれなかったらすぐに根を上げていたかもしれない。伯寧様のおかげで知識がどんどん増えていくのが嬉しかった。


20210313

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