今日は有給を取って検診を受けた後、優雅に美味しい物を食べる予定だ。ただ、ご飯の前に伯寧の忘れ物を会社に届けに行くことになった。病院を出た時に着く時間を調べて連絡を入れているから、あとは休憩時間に入った伯寧が降りてくるのを待つだけ。待っている間にこの付近で美味しそうなランチがないか調べようかな。伯寧に聞いてもいいけど、吉野家とか富士そばとかしか出てこなそうだから、自分で探した方が良い店を見つけられそうだ。上着のポケットからスマホを取り出した時、ビルから二人の男の人が出てきて、髪が明るい方と目が合った。随分顔の綺麗な二人組みで、思わずじっと見てしまったけど、失礼だと思って慌てて目を反らした。なのにその目が合った人がこちらに向かって歩いてきた。何見てんだよとメンチ切られるかと思って内心冷や汗をかいていたら、失礼、と話しかけられた。
「誰か待っているのかな?」
「…え?私ですか?」
「そう。誰が君みたいな綺麗な女性を待たせているのだろうと思ってね」
メンチ切られると思ったらまさかのナンパまがいで、違う意味でまた内心穏やかじゃなくなった。もう一人の黒髪の人が「突然失礼ですよ」となだめていたけど、疑心暗鬼になっている今、そういう手口で近づいてきているのかもしれないと思ってしまい、親切そうなその人まで変な目で見てしまう。伯寧の会社にはとんでもないチャラ男がいることがわかったし、とにかく早く来てくれないかなと思いスマホを見たら「今行くよ」と言う通知が数分前に入っていた。スマホを握りしめて出入り口を見ていたら、ちょうど自動ドアが開いて伯寧が走ってきた。電話で言われた物を伯寧に渡すと、何度もお礼を言われた。
「ありがとう、本当に助かったよ。…あれ、郭嘉さんと何か話していたのかい?」
郭嘉さん。伯寧がそう呼ぶということはこのチャラ男は伯寧の同僚なのだろう。さすがにナンパされそうになったとは言えなかったから、話しかけられた事実ごと消そうと思って首を横に振った。なのに郭嘉さんとやらは「そうだよ」と笑いながら答えていて、軽く睨みつけた後にもう一度首を振ったておいた。
「綺麗な女性が不安そうな顔をしていたら声をかけるのは当然でしょう」
「状況にもよりますが、誰彼構わず声をかけるのは貴方だけだと思いますよ」
黒髪の人がさっきみたくフォローを入れてくれた。チャラ男と一緒にいたから疑心暗鬼になっていたけど、この人は普通に良い人のようだ。不安そうな顔をしていたと言うけれど、それは目が合った直後にこちらに向かってきたのと変に声をかけられたからであって、どちらもこの郭嘉さんとやらのせいなのだ。お前のせいだと言いたかったけど、伯寧の同僚にそんなことを言って関係が悪化してしまったら大変だから、ぐっと堪えた。その時、伯寧が私の肩を引き寄せて、二人のイケメンと向き合った。
「前に話していた私の彼女です」
彼女ですと誰かに紹介されるのが初めてだったから、予想外の展開に伯寧を見上げたまま固まってしまった。黒髪の人も心なしか固まっている気がする。チャラ男だけはやっぱりねと何か納得した様子だった。
「この後二人はどうするのかな?一緒にランチをするにはもう時間が足りないけど」
「私はすぐに戻るけど、彼女はゆっくり昼ごはんを食べると思いますよ」
「ああ、それならオススメのお店があるんだ」
チャラ男はそう言うとスマホを少し操作して画面を見せてくれた。隠れ家風のイタリアンのお店で、ランチは千円から出しているみたいだった。チャラ男はあまり信用していないけど、このお店は何となく良さげだった。
「本当は私が連れて行きたかったけど、私も午後のプレゼンの準備があるから一緒に行けないんだ」
「お店の情報は嬉しいですけど、ついてこなくていいです」
「その時は私も一緒に行かせてもらうよ」
「半分は冗談だからそんなに怖い顔をしないでよ」
伯寧の口角は上がっていたけど、目が笑っていないように見える。嫉妬してくれてるなら嬉しいな。二人はまだ何か話していたけど、朝から何も食べていない私はだんだんと空腹に耐えられなくなってきた。その時に黒髪の人と目が合った。
(お互い苦労しますね…)
言葉はなかったけど、そう思っているのが表情から伝わってきた。
20210324