26日
「眠れないのかい?」
庭の椅子に座って空を見上げていたら、急に後ろから声をかけられた。声の主は伯寧様だとすぐにわかったけど、寝ていると思っていたから突然現れたことに驚いてしまった。
「一度目覚めてしまってからなかなか寝付けなくて」
そう答えると、伯寧様はこちらまでやってきた。伯寧様も座るかなと思って少しずれたら、隣に座ってくれた。あまり大きくない椅子だから、ほとんど密着するような形だ。
「貴方が起きて部屋を出て行ったのは気付いていたんだけど、なかなか戻ってこないから心配したんだ」
「起こしてしまったのですね。申し訳ございませんでした」
「ああごめんね、そういう意味で言ったんじゃないんだよ」
「ふふ、わかっていますよ」
申し訳なさそうに言いながら頭を撫でてくれた。私も伯寧様が不満の意味を込めて言っているのではないとわかっていたから、笑いながら返事をした。その後に空を指差して、言葉を続けた。
「空を見ていました」
「空を?今日はあまり月が出ていないけど」
「それがいいのですよ。おかげで星がよく見えます」
「なるほど、星を見ていたんだね」
私の指につられて伯寧様も空を見上げると、ああ、という感嘆の言葉を漏らしていた。今日は満月じゃないから、大小さまざまな星をよく見ることができた。
「満月だと月の光が明るくて周囲の星はよく見えませんが、今日のように欠けた月だと光が弱いのか空全体の星が見えるんですよね」
「確かに、今までは月ばかり見ていたけど、星もこんなに綺麗だったんだ」
「ほら、あそこは星がたくさん集まっていて川のようになっていますよ」
「本当だ。空にかかる川なんて不思議なものだね」
その星の川を指でなぞっていたら、その川を渡るように一つの星が流れた。思わず目で追いかけたけど、あっと言う間に流れてしまい、伯寧様に伝える間もなく消えてしまった。あっという声は漏れていたから、伯寧様は私の視線を追うように同じ所を見上げた。
「何か見つけたのかい?」
「今、星が流れて消えました…」
星が流れるのは誰かの命がなくなった時。そういう言い伝えを思い出してしまい、少しだけ気持ちが暗くなった。
「誰かが命を落とした瞬間かもしれないのに、流れ星を綺麗と思ってしまいました…」
「綺麗だと思った気持ちはそのままでもいいんじゃないかな」
「そう、思いますか?」
「勿論だとも。貴方が綺麗だと思った流れ星を私も見てみたかったな」
伯寧様は私の肩を引き寄せて、私の頭にそっと自分の頭を重ねた。その言葉に重くなっていた気持ちがすっと軽くなった。伯寧様の言葉はいつでも私を安心させてくれる。伯寧様の優しい言葉とぬくもりのおかげで、全く寝付けなくなっていたのに、少しずつ瞼が重くなっていった。
20210326