28日
今伯寧様が赴いている場所は戦の落ち着いている場所で安全らしく、よかったらこちらへ来ないかという手紙を頂いた。どちらにせよそろそろ遠征に必要なものが足りなくなる時期だろうと思っていたから、届けに行く使いの者と共に行ってみようかなと思い、伯寧様の元へと来ている。伯寧様の言う通り、ここは私のいる場所と変わらずに人々が生活を送っていて、戦なんて本当に起こっているのかと疑ってしまう。伯寧様に一通り街を案内してもらい、伯寧様達が滞在している城に戻ってきた。小さな竈を借りて、持ってきたお茶を淹れ、それを飲みながら久しぶりの会話を楽しむ。一通り話し終えた時、ここに来る前に読んでいた書物のことを思い出して、荷物の中からそれを取り出して伯寧様に聞いてみた。
「こちらの書物に載っていたのですが、この辺りに珍しい花があるというのは本当ですか?」
「ちょっと読んでもいいかい?」
「どうぞ」
伯寧様は私の手から書物を受け取ると、静かに読み始めた。この辺りの地だというのはわかったけど、地図が手元になかったために詳しい場所がわからなかったのだ。伯寧様は読み終えると、書物を巻いて私に戻した。
「書物を読む限り、近くにありそうだね」
「本当ですか?」
「民に聞いたら知っている人がいるかもしれないな。場所がわかったら見に行ってみようか」
「ぜひ、見てみたいです」
伯寧様のその答えに胸が弾んだ。この書物を読んだときから本物を見てみたいと思っていたから、近くにあるとわかっただけでも嬉しいのに、伯寧様と共に見れれるのだ。書物を戻そうと思い立ち上がった時、一人の兵が慌てた様子でこちらに駆けてきた。兵は私の顔を見て一瞬戸惑いを見せたけど、そのまま伯寧様のもとへ行き一通の手紙を見せた。伯寧様はそれを読むと、段々顔が強ばってきた。何か良くない知らせでもあったのだろう。それは私の知らない、戦中の伯寧様のお顔だった。兵と少し会話をすると、兵は頭を下げて下がっていった。少しの沈黙の後、伯寧様がそれを破って重い口を開いた。
「事態が急変したようで、じきにここも戦になるかもしれない」
「はい」
「今すぐにここを発てば大丈夫だから、さっき着いたばかりで申し訳ないんだけど、すぐに戻ってくれないかな」
「すぐに準備しますね」
先程着いたばかりで荷物を崩していなかったから、身支度さえ整えればすぐに出られる状態だった。私は伯寧様の邪魔にならないように、急いでここを発たなければならない。すぐに支度に取り掛かろうと思い、持っていた書物とお茶の道具を荷物の中へと戻していった。
「状況は悪いのですか?」
「あまり良くないけど、何とかしてみせるさ」
「伯寧様なら大丈夫ですよ。ご武運をお祈りします」
「貴方が見たがっていた花、連れて行けなくてごめんね」
「いつか、落ち着いたら二人で見に行きましょうね。約束ですよ」
「ああ、約束するよ。絶対に見に行こう」
口ではこう言っているけど、伯寧様の苦しそうな表情からもこの約束が果たされることはないのだろうと何となく感じていた。それでも絶対に見に行こうと言ってくれる伯寧様はやっぱり優しい。この先どれくらいかかるのかわからないけど、平和な世の中が訪れた時に、「そんなこともありましたね」と笑いながら花を見る日が来ると信じて、伯寧様の手を握った。
20210328