伯寧様に文字を教わり始めてから、読めるようになる書物が圧倒的に増えていった。言葉の意味がわからなくて理解できないものもあるけど、書物を読むことによって自分の知らなかった世界がどんどん広がっていく。今日読んでいた書物もとても興味深いことを書いていた。伯寧様の書物だから既に知っていることだと思うけど、隣にいる伯寧様に話してみることにした。
「今日とてもおもしろい書物を読んだのですが」
「…うん?」
掠れた声が返ってきたから、少し体をずらして伯寧様を見上げると、目がほとんど閉じていた。うとうとしていたところに声をかけてしまったみたいだ。
「お疲れのところすみません。どうぞお休みになって下さい」
「いや、大丈夫だよ。どんな書物を読んだのかな?」
伯寧様も体をずらして私と向き合う状態になった。お疲れの伯寧様に長話をするわけにはいかないから、手短に話さないと。私は書物で一番印象に残っていた言葉を口にする。
「輪廻、という言葉を聞いたことありますか?」
「輪廻……確か遠い国の思想についてまとめられた書物に載っていた気がするけど、どんな内容だったかな」
「流石ですね。難しい言葉が多くて私もちゃんと理解はできていないのですが、生き物が死んだ後はまた生まれ変わる、という考えだそうです」
「死んだ後に生まれ変わる…?死後の世界に行かないということなのかな」
「詳しいことはよくわからないのですが、そういうことなのかもしれませんね」
「生まれ変わるって、何に生まれ変わるんだろう」
「それは生前の行いによって変わると書いてありました」
「なら、良い行いを積み重ねるべきだね」
「そうですね」
私がちゃんと理解できていないせいで、このような曖昧な答えしか返せなかった。でも、あの物知りな伯寧様でも疑問に思うのだから、私がわからなくても無理もない。輪廻についてもう一度頭の中で考えてみる。私がまた私として生まれ変わり、伯寧様もまた伯寧様として生まれ変わったら、また私達は出会うことができるのだろうか。死んだ後の話なんて誰も知らないことだけど、伯寧様なら私の欲しい答えをくれるような気がしたから聞いてみた。
「伯寧様、もし私達がまた私達に生まれ変わったら、再び出会えるのでしょうか?」
「……ん、」
曖昧な言葉だけ返ってきたから考えているのかと思いもう一度伯寧様を見上げたら、伯寧様の目は閉じていた。今度は完全に眠りに落ちているようで、規則的に肩が上下している。手短にと思ったのについ話し込んでしまい、伯寧様に無理をさせてしまっていたようだ。明日朝一で謝ろう。このままだと体が冷えてしまうから、布団を伯寧様の肩までかけ直した。
「おやすみなさい」
伯寧様はもう夢の中だろうけど、眠る前には挨拶をしてから眠りにつきたかったから、伯寧様の耳元でそう言った後、私も目を閉じた。
20210330