甘寧×ピニャコラーダ×淡い思い出
友達に誘われて初めて来た海は、人気のビーチということもあるのかとても人が多かった。最初は人酔いしそうになったけど遊んでいくうちに慣れてきて、今は遊びすぎてお腹が空いたから海の家でご飯と飲み物を注文している。お店の中は満席だったし待っている人も多かったから、持ち帰りにして遊んでいた辺りで食べることにした。注文を終えた後に友達がトイレに行ったから、私は壁際でスマホをいじりながら料理が出来上がるのを待っていた。スマホをいじり始めて少しした時、目の前に男の人がやって来た。店員さんかと思って顔を上げたら、店のユニフォームを着ていない男の人が二人いた。ただの客だとわかった時にこれはまずいと思ったけど、ばっちりと目を合わせてしまい、しかも囲うように目の前に立たれてしまったから逃げ道を失ってしまった。
「お姉さん達、二人で遊んでたでしょ。俺達も二人だからさ、この後一緒に遊ばない?」
「いえ、結構です」
「遠慮しないでよ。ビーチで遊ぶのが嫌だったら一緒に飲もうよ。さっきお酒注文してたじゃん」
「友達と遊びに来ているので…」
「じゃあ俺達とも友達になろう。みんなで遊んだ方が楽しいよ」
街中で遭うナンパだったら無視するのに、今はこうして囲まれてしまったから逃げられない。早く友達帰ってこないかな。男が話しかけるのを無視して周りを見回していたら、急に肩に腕を回された。びっくりして声も出なくて固まっていたら、新たに体格の良いお兄さんが近づいてきて、男の肩に手を置いた。
「ねーちゃん困ってんだろ。その手離してやれよ」
男達は怪訝な顔で振り返ったけど、視線の先にいた体格の良いお兄さんを見ると急に大人しくなってどこかへ行ってしまった。男達の気持ちもわかる。だってそのお兄さんは筋骨隆々で、立てた髪をがっちりと固めていて、眉間には皺が寄り、目つきがとても鋭い。男達がいなくなった今、前にいるのはこのおっかない見た目のお兄さんだけになってしまった。助けてもらった身なのに、別の意味でまた怖くなってしまい、お礼の言葉が出てこなかった。お兄さんの鋭い目が私を捉えて、こちらに向かってきた。
「おい」
「は、はいっ!」
「大丈夫だったか?」
「大丈夫です…!」
「そうか。これだけ人が多いと変な奴らもいるから気ぃ付けろよな」
「あ、あの…ありがとうございました…助けて下さって」
お兄さんが目の前に来たことでより圧を強く感じて最初はオウム返しのような返事しかできなかったけど、少しずつ慣れてきて、ようやくお礼を言うことができた。
「別にいいって。困ったやつがいたら助けるのが普通だろ?」
人は見かけによらないとはまさにこのお兄さんのことを指していると思う。困っている人を助けようと思うことはあっても、実際に行動に起こせる人は限られてくると思うし、特にさっきのようなナンパ男から助けるなんて、見ず知らずの人の為にできることじゃない。私はもう一度お兄さんに頭を下げた。その時に注文していたものが出来上がったようで、店員さんが私の持っている札の番号を探していた。番号札を渡して袋にまとめられた焼きそばと飲み物を二つ受け取る。それにしても友達はまだ戻ってこない。きょろきょろと辺りを見回していたら、またお兄さんに話しかけられた。
「そのジュース美味そうだな」
「あ、これピニャコラーダっていうお酒なんです」
「ピ…?変な名前だな」
「パイナップルとラムのお酒ですよ」
「へー。夏っぽい洒落た酒があるんだな」
お兄さんは興味深そうにピニャコラーダを見ている。生パインもついているし、確かに見た目は完全にパインジュースだ。そんなに気になるなら先程のお礼も兼ねてこのお酒をあげようかと思った時、友達が私の名前を呼びながら人混みをかき分けて走ってきた。
「やっと友達が来たみたいだな」
「助けて頂き本当にありがとうございました」
「俺は甘寧っていうんだけど、また困ったことがあったら呼んでくれよな。すぐに助けに行くから」
お兄さんはそう言うと、手をひらひらさせながら外に出ていってしまった。何だかスーパーマンみたいな人だったな。お兄さんが行った直後に友達が来たけど、お兄さんが歩いて行った方を見ながら不思議そうに言った。
「え?何?カツアゲ?」
ナンパじゃなくてカツアゲと思われていたことに笑ってしまった。確かにあの見た目だけでいったらカツアゲと思われても仕方がないかもしれないけど、中身は全然違う。お兄さんの名誉の為にも友達がいない間の話をして、あのお兄さんがどれだけ良い人だったのかを熱弁した。そしたら友達に「何で連絡先聞かなかったの!」と怒られてしまい、焼きそばを食べたらお兄さんを探しに行こうとまで言われてしまった。困ってはいないけど、一度も呼ぶことはないと思っていた甘寧さんという名前を別の意味で呼ぶことになりそうだ。
20210508