荀ケとコーヒーの話*

 コーヒー豆を挽く音で目が覚めた。私のゆっくり過ごす休日の目覚ましの音。少し体を起こして手を伸ばし、カーテンを開ける。朝日を取り入れた部屋は明るくなった。日の光を浴びて眠気が抜けていくけど、もう一度ベッドの上で体を丸めた。まだ起きる時間じゃない。今日は何をして過ごそうかな。手のこんだ料理をしたり、前に見た映画の続編を見たりしたいなとぼんやり考えていたら、コーヒーの良い香りがふわりと漂ってきた。そろそろ起きる時間だ。少し重たい体を起こして床に足をつけた時、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。返事をするよりも顔を出した方が早いだろう。髪を手ぐしで整えながら部屋を出た。

「おはようございます。よく眠れましたか?」
「文若さん、おはよう」
「まだ少し眠そうですね。コーヒーができましたよ」
「良い香り。すぐに顔洗ってくる」

 コーヒーと共にトーストもテーブルに並んでいた。スーパーで買ったおつとめ品の一番安い食パンなのに、文若さんが用意すると高級ホテルのふわふわなトーストのように見える。鳴りそうになったお腹を抑えて、洗面所に駆け込んだ。
 いただきます、と手を合わせてからマグカップへと手をのばす。コーヒーの苦味の後に、まろやかなミルクの味と甘みをほんのりと感じた。私の好きなカフェオレの味だ。マグカップを両手で持ったまま、ほっと小さなため息をつく。

「文若さんはいつも私の好きな味のコーヒーを淹れてくれるね」
「休日の朝の貴方は多めの牛乳と砂糖を少し、ですよね」
「完璧。さすが文若さん」

 忙しい時や仕事中など目を覚ましたい時はブラックで飲むこともあるけど、休みの日はカフェオレにするのが好きだった。特に今日みたいな日はそのようにして飲みたくなる。気分次第で飲み方が変わる私だけど、それを文若さんが理解してくれていることが嬉しかった。ふと文若さんのマグカップを見ると、私と同じ色をしたカフェオレが入っていた。私の知る限りだと文若さんはブラックで飲む人だったはずだ。

「文若さんがカフェオレ飲んでいるの珍しい」
「確かにそうかもしれませんが、私も牛乳を入れるのは好きですよ」
「そうだったんだ。てっきりブラックしか飲まないかと思ってた」
「それに、貴方の好むものを共に飲む朝も良いですからね」

 マグカップを置いて、にこっと笑う文若さん。私もつられて頬が緩む。私の好きなものを大切な人と飲む朝はこんなにも幸せで、毎日こんな日が続けばいいのにと思いながら、カフェオレをもうひとくち口に含んだ。

20211004

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