郭嘉と紅茶の話*


 今日は奉孝さんのお家で映画を見る約束をしている。途中の駅に立ち寄って気になっていたお菓子を買い、奉孝さんの家へと向かう。もう何度も来ている場所なのに、まだインターホンを鳴らすのに緊張をしてしまう。少し震える指でチャイムを押したら、すぐに奉孝さんが出てきた。

「いらっしゃい。さあ、入って」
「お邪魔します」

 笑顔で迎えてくれた奉孝さんは、流れるように私から荷物を取り、奥へと行った。急いで靴を脱いで後に続く。もちろん靴を揃えてから部屋の中へと進んだ。

「今紅茶を淹れるけど、何がいいかな?」
「えっと、前に飲んだ外国の女の人みたいな名前のやつがあれば……」
「マリアージュフレールだね。貴方ならそう言うと思ったよ」

 奉孝さんは缶から茶葉を取り出し、手際よく紅茶の用意を始めた。奉孝さんは手慣れているから、私が手伝えるような出番はなさそうだ。大人しくリビングのソファに座って待つことにした。


「お待たせ。貴方が買ってきてくれたお菓子とよく合いそうだ」
「ありがとうございます。……え、可愛い!」

 奉孝さんから受け取った紅茶には、いつもと違ってベリーが浮かんでいた。ガラス製のカップに、ブルーベリーやフランボワーズなど、たくさんのベリー類が浮かんでいる。

「ミックスベリーを見つけたから買ってみたんだ。紅茶によく合うよね」
「ミックスベリーはアイスやヨーグルトに使っていましたけど、紅茶に浮かべるのは初めてです」

 紅茶の良い香りを嗅いだ後、口に含む。一緒に口の中に入ってきたブルーベリーを噛むとほんのりと酸っぱかったけど、紅茶に砂糖を入れてくれていたのか、すぐにふんわりと和らいだ。とても美味しかったからもう一口分他の実と一緒に飲む。口の中に入ってきた実を噛んだら、ブルーベリーと比べ物にならないくらい酸っぱくて、顔を顰めてしまった。

「おや?どうしたのかな?」
「今食べたやつが凄く酸っぱくて苦かったです……」
「ああ、それは可哀想に。何を食べたんだろう」

 奉孝さんが距離を詰めてきたから、持っていたカップを差し出す。だけど奉孝さんはカップを受け取るとすぐにテーブルに置き直し、私の口を塞いだ。突然のことにびっくりして体を引こうとしたけど、耳の辺りに手を入れられ、更に引き寄せられてしまった。奉孝さんの舌がゆっくりと絡む。不意打ちのキスだったから上手く息継ぎができない。ちゅ、という音と共に奉孝さんが離れていった後、大きく息を吸って呼吸を整えた。

「うん、これはたぶんカシスだね」
「え……?」

 奉孝さんのその言葉とごくんという喉の動きから、さっきまで私の口内にあった酸っぱい実がなくなっていることに気付いた。急なキスに加えて、私がさっきまで食べていたものを奉孝さんに取られるという事態に、顔が熱くなっていく。

「その恥ずかしそうな顔、すごくそそられるね。もっと触れたくなってしまうな」

 待って、という私の抵抗は、もう一度重なった奉孝さんによってかき消された。紅茶をゆっくり楽しむのも、映画を見るのも、かなり先になりそうだ。


20211106

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