満寵との初めまして
調練がない日の朝は空いてる広場で剣を振るうのが日課になってきた。人の居ないところで気兼ねなく振りたいから自室から結構離れた場所を選んでいて、最近のお気に入りはここ。今のところ見張りの兵としか顔を合わせてない。
気の済むまで剣を振り、汗を拭っていると、ぶつぶつと何かを呟きながら廊下を歩いている人が目に入った。将軍の話にたまに出てくるし、戦場でも何回か見たことあるけど、話した事は一度もない。名前は確か満寵殿と言っただろうか。私は軍師殿と関わることはほとんどないから、名前と顔が一致しないけれど、体格の良さからいってきっと満寵殿に違いない。熱中すると周りが見えなくなると周りの将軍に達がよく話していたけど、確かにあの様子を見るにちょっと変わっているかもしれない。いつもの私だったら何も見なかったことにして立ち去るけれども、目線の高さだったためか、胸元の不自然な皺に目がいってしまった。紐が本来の場所とは違うところに掛けられているみたいで、そこから下の装飾が全て曲がっていた。本当にいつもの私だったら何も見なかったことにして立ち去るけれども、私の記憶が間違っていなければ、この廊下を真っ直ぐ行くと軍議を行う部屋があるはずだ。あの格好で軍議に行くつもりだろうか?色々な葛藤を繰り広げた結果、私は剣を置いて満寵殿の名前を呼んだ。
「満寵殿」
「…今はこの案だとあまり上手くいかないだろうな…そしたらもう一つの…」
「満寵殿!」
「え…?あれ、君は?」
「お初にお目にかかります。ななしと申します」
「ななし…ああ、あの将軍の配下の子だね。働き者の女性がいるという話をよく聞くよ」
「ありがたきお言葉、光栄に思います。また、恐れながら申し上げてもよろしいでしょうか」
「どうしたのかな?」
「お召し物の紐がずれています。この後軍議に向かうようですので、恐れながら声をかけさせて頂きました」
満寵殿は目線を下げ、自分の胸元を確認してくれた。
「おっと…また集中していてずれてしまったのか」
「今日の軍議には于禁殿もいらっしゃるようですので、身なりには気を付けた方がよろしいかと思います」
「ありがとう。また荀ケ殿か荀攸殿に小言を言われる所だったよ」
「お役に立てたなら何よりです」
その場で紐を全部外し始めたから目線を反らすように頭を下げ、剣を置いてきた所に戻ることにした。
「ななし殿」
「はい」
「今度君の軍での話を聞かせてくれないかな。戦場に出ている女性の話を聞く機会はそうないから興味深いよ」
「はい、是非」
お召し物を直してる所を直視していいのか悩んだから完全に振り向きはしなかったけど、もう一度頭を下げてその場を立ち去った。
20190323