満寵とお花見する話

 頼まれた書簡を届けに行った帰り道、ちょっとだけ遠回りをしていこうと思って、来た道とは違う方へと歩いていった。今日は風が強いから髪を押さえながら歩いていると、風に乗って桃色の花弁が舞ってきた。そういえば自室の近くにあった桃の花が綺麗に咲いていたなと思い、花弁の飛んできた方へ向かったら、曲がった所に小さな中庭があり、真ん中に立派な桃の木が花を咲かせていた。

「わ、綺麗…」

 1人でいても思わず声が出てしまうほど綺麗に咲いていた。だけど今日の強風で終りかけの花弁が散っていて、明日には半分もなくなっているかもしれない。吹雪のような花弁がまた情景に合っていて、まさに今この瞬間が見頃だった。

「ここの桃の木は毎年立派な花を咲かせるよね」
「あ…満寵殿。こんにちは」
「やあ。ななし殿も仕事を抜け出してきたのかな?」
「ななし殿もって、満寵殿と一緒にしないで下さい」
「私も怠けているわけではないよ。ちょっと休憩中でね」
「私だって書簡を届けに来た帰りです」

 やらなければいけない仕事が残っている中こうして寄り道をしているのは事実だったから、すぐに否定はできなかった。満寵殿は私の隣に立って、桃の花を見上げた。

「満寵殿もこうやって花を愛でることがあるんですね」
「え?」
「築城とか計略ばかりで、こういう類のものには興味ないかと思ってました」
「私だって人並みには草花を綺麗だと思うよ」
「でもこの風景と見知らぬ城があったら城しか目に入らないでしょう?」
「うん、そうだね。否定はできないな」

 でしょうねと思い、言葉を返さなかった。もうそろそろ戻らなきゃと思いつつしばらくの間無言で桃を見上げていた。

「ここに美味しい酒があれば最高だと思わないかい?」
「そうですね、花見に酒と肴は必須ですね」
「ここまで立派な桃じゃないけど、私の部屋から見える桃も今綺麗に咲いてるんだ。よかったら今晩花見酒でもどうかな?」
「いいですね。ぜひお邪魔したいです」

 満寵殿の方に視線を移すと、満寵殿と目が合った。ずっと桃を見ていると思っていたからちょっとだけ驚いたけど、そしたら満寵殿の手がのびてきたから思わず構えてしまった。

「髪についていたよ」

 構えた手を越えて髪に触れられたと思ったら、満寵殿の大きな手に似つかわしくない、小さな桃の花が乗っていた。

「あ、ありがとうございます…」
「こんなのを付けたまま戻ったら寄り道していたのを知られてしまうからね」

 はい、と自然な流れで桃の花を渡された。散っていく花弁に混じって花ごと落ちてしまったようで、まだ綺麗な形を保っている。水を張った杯に浮かべたら数日は持つかもしれないから、部屋に戻ったら試してみようかな。

「似合っていたから髪に付けたままでもよかったかな」
「は…?いや、何言ってるんですか」
「じゃあ今晩楽しみにしているよ」

 いつもの調子でいつも言わないようなことを言われたから反応に困るし、こちらの調子が狂ってしまう。先を歩いて行った満寵殿の背中に向かって「何なの…」と投げつけた。


20190406

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