満寵に体調不良を心配される話
昨日の仕事中から嫌な予感がして早めに寝たけど、朝起きたら体調の悪さが悪化していた。更に最悪なことに月のものも来てしまった。喉は痛いし、全身だるいし、特に下っ腹の辺りがきりきりと痛む。月のものに伴う痛みはいつもそれなりにあるけど、たまにとても痛い時が巡ってくる。それが運悪く今日きてしまったようだ。寝台から出たくない気持ちを押し殺して何とか支度をしたけど、これだけで力尽きてしまいそうだったから今日一日身体が持つか不安になってきた。満寵殿に言うか悩んだけど、最近の満寵殿は忙しそうだから私が休んでしまっては仕事が溜まっていく一方だ。幸いなことに明日までは調練もないし、座ってやるだけの仕事だから頑張ろうかな。月のものも一日だけ耐えれば痛みは引くし、そうすれば風邪の症状も良くなるかもしれない。
執務室に行っても満寵殿はいなかった。誰かと仕事をしているか、急な軍議が入ったのだろう。声も上手く出せないから、正直顔を合わせなくてほっとした。このまま会わないで一日が終わってくれればいいのにと思いながら仕事をしていたけど、体調が悪い時の時間の進みは遅くて、やっとの思いで昼までたどり着いた。朝食べていないから昼は何か食べなきゃ身体が持たないなと思ったけど、全然食欲はわかないし、食堂まで行く体力もなかった。どうせ誰もいないからと思って机に伏せる。きりきりと痛む下っ腹を擦りながら、午後はどうやって乗り切ろうと考え始めた時、満寵殿が戻ってきたようで、女官の声がした。こんな体たらくを見られるわけにはいかないと体を起こしたら、その直後に満寵殿が部屋に入ってきた。
「ななし殿、仕事を任せてしまってすまないね」
「大丈夫です」
今喋ったら気付かれてしまうと思ったけど無視するわけにもいかなかったから一言だけ発した。自分が思っていた以上に声が出なかったのと、朝よりも酷い掠れた声。まずいと思った時には既に遅くて、驚いた顔の満寵殿と無言で見つめ合ってしまった。
「…風邪、かな?」
気付かれてしまった。迷惑をかけまいと思っていたのに、早々にやらかした。何となく気まずくて視線を落として頷いた。
「それは大変だ。顔色も悪いし、熱は…あるのかな」
「ないと思います。…っ!?」
「いや、熱いよ」
満寵殿の手が額に触れた。予想外の行動と身体のだるさで反応が遅れてしまったけど、身を引いて満寵殿の手から逃げようとする。だけど満寵殿の手は離れることはなくて、額に触れたままだった。でも、満寵殿の手はひんやりしていて、少しだけ気持ちよかった。
「悪化したら大変だから、今日は部屋に戻って休みなさい」
「でも…」
「こちらはもう大丈夫だから。私はもうずっとこちらにいられるしね」
「ご迷惑おかけします…」
仕事は終わらないし、満寵殿に心配をかけてしまうし、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。早くこの場からいなくなりたかったし、一日ゆっくり寝て身体を回復させようと思ったのに。立ち上がった瞬間に目の前が真っ暗になって、机に伏せてしまった。たぶん貧血だ。しかも下っ腹がまたきりきりと痛み出した。
「大丈夫かい!?」
「大丈夫です。本当にすみません…」
「大丈夫という顔色じゃないよ。お腹も痛むのかい?」
「…今のは、ただの貧血だと思うので…」
月のもの、なんて直接言えないし、でも風邪とは違くて毎月くる痛みだから気にしないでほしいという意味も込めて最大限にぼかした返事をした。お腹を押さえていた事もあってか、満寵殿は察してくれたみたいで、あー、とか、なるほど、とか言っている。
「男の私にはわからないけど、かなり辛いらしいね」
「すみません…」
「すぐに動けなそうだったらそこで横になって休んだ方がいい」
「ありがとうございます…」
すぐに動けなそうだったから満寵殿の言葉に甘えて端にある長椅子に横になった。身体を起こしていた時よりも幾分か楽になる。
「部屋まで運ぼうか?」
「運ぶ…?馬で…?」
「いや、私が」
「結構です!」
「遠慮しなくていいのに」
「さすがに遠慮します」
お手を煩わせたくないというのもあるけど、仮に運んでもらったとして背負っていくのか肩に担いでいくのかましてや横抱きなんかされた時に誰かに会ってしまったらまたあらぬ事を言われてしまうかも。いくら部屋が近いと言えども人の目はあるから疑われるようなことはしたくない。
「ななし殿、辛かったら寝ていていいからね」
「流石に仕事をしている満寵殿の前で寝るなんてできないです」
「少しでも楽になるなら身体を休めた方がいいよ」
「横になっているだけでも…」
そう言いつつも、実は満寵殿が戻る前からだるさからくる睡魔に襲われていた。しばらく横になってしまったことでその睡魔は強くなってきていて、今にも瞼が落ちそうだった。ただでさえ仕事中に満寵殿の前で情けない姿を晒しているのに、寝てしまっては失礼極まりない。頭の中ではそう言い聞かせたけど、意識はだんだん遠くなっていった。布がかけられるのを感じたからお礼を口にしたけど、ちゃんと言葉になっていただろうか。そこで私の意識は途切れた。
20190425