魏軍師の女性談義
軍師達が個々に飲むことはよくあったけど、今日みたくみんなが揃って飲むことは珍しかった。郭嘉殿の呼びかけでこうして隠れ処に集まったわけだけど、癖の強い者の集まりだから、政治から戦術の話、娯楽の話までと多様な話題ばかりだった。今は荀ケ殿と荀攸殿、賈詡殿が熱心に先の戦の話で盛り上がっている。郭嘉殿の杯が少なくなっていたから酒器を差し出すと、微笑んで杯を出してくれた。
「満寵殿は話に入らなくていいのかな?満寵殿も活躍した戦の話だよ」
「いやあ、私も常に自分の考えを話すわけではないですよ。今はこうしてお三方の話を聞いているのです」
「そしたらちょっと話題を変えてもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
郭嘉殿はどんな事を話してくれるのかと心待にしていたら、ちょうど話が途切れたときに少しだけ意外な話題を持ちかけてきた。
「皆、ななし殿という女性の将をご存じかな」
「女性の将は知っていますよ。それこそ先の戦で活躍していましたよね」
「ああ、あのあまり要領の得ない将軍の所の副官さんだろ?」
「先日の戦ではその将軍が武功を上げていたけれど、影の功労者はななし殿だって話を聞いたからこれは面白そうだなと思ってね。皆は何か知っているかな?」
「女の事なら郭嘉殿が一番知ってそうだけど」
「出身地と年齢は知っているよ」
「うわ…」
「荀攸殿が引いてるよ、郭嘉殿」
賈詡殿の突っ込みを得意の微笑みで交わして杯をあおった。周りの話が出てくるまで待つつもりなんだろう。
女性の将がいることは知っていたけど、ななし殿のことを詳しくは知らなかったから私もあとの三人が話すのを待つことにした。
「あの時指揮をとっていたのは私でした。将軍には期待していなかったので先鋒に続くよう伝えていたのですが、一部の部隊が隙を見て奇襲攻撃をかけて敵陣を混乱させてくれました。それがななし殿の部隊だったと聞いています」
「確かごく僅かの人数で乗り込んだんだっけか。肝が据わった女だねえ」
「しかも崖に近い所から出てきたらしいですね」
「身軽なのか、怖いもの知らずなのか」
荀ケ殿が見取り図を出してその時の戦況を説明してくれた。それに加えて、賈詡殿、荀攸殿がこの辺りから奇襲をかけたのだろうと指差してくれた。なるほど、これは地図を見ただけでは通れると思えない場所だ。馬で駆けながらここを見て行けると一瞬で判断したんだろう。
「確かに少々無謀とも取れるやり方かもしれませんが、一瞬で地形と敵の隙を見極める洞察力、咄嗟の判断力、部下の統率力、全てが素晴らしいですね」
「うん、そうだね。是非とも手元に置いておきたい将だね」
「あははあ、郭嘉殿はそれだけの意味じゃないでしょ」
「どうやら酒も結構強いみたいだし、一緒に飲んでみたいなと思うよ」
これだけの話を聞いているとななし殿とやらは本当に女性なのかと疑ってしまう噂ばかりだ。うん、とても面白い。郭嘉殿じゃないけれど、いつかゆっくり話す機会があるといいな。どうして将になろうと思ったのか、どこで学んだのか、私の知らないことがたくさん出てきそうだ。
「それにしてもあの男だらけの軍の中でどうやって過ごしているのかね」
「女官と共に過ごしているのではないですか?」
「仮にも副官だから軍議に出る関係で離れられないだろ。でもいくら副官と言っても所詮は女。飢えた男達の中に一人でいて平気なのかね」
「賈詡殿」
「そう睨むなって、荀ケ殿。酔っ払いの戯れ言として流してくれよ」
「確かに気になるね。どの様に過ごしているのだろう。もし悩んでいたら私の元へ来てくれてもいいのに」
「郭嘉殿は下心が見えすぎです」
男が集まるとどうしてこういう話になるんだろうか。酒の席だし仕方がないと思うけど、本音を言うなら今はもっとななし殿の活躍について話を聞きたかったな。
20190429