満寵の親戚の子供の相手をする話の後日談


「ななし殿、これをあげる」
「え?…え?何ですかこれ」
「簪だよ」
「いやそれは見てわかります。何でまた急に」
「この前あの子を見てくれたお礼だよ」
「そんなお気遣いしなくてよかったですって…」
「いや、正確にはどれくらいお金を出させてしまったのか気になったから店に行ったんだ。そこにななし殿に似合いそうなものがあったからお礼にと思ってね」
「すみません…」

 書簡を片付けている真っ只中に急に差し出された簪。普段全然つけないから久しぶりに手にしたなと思い、じっくりと見てしまう。あまり派手ではないけれど、繊細な模様と所々についている小さな装飾、動かすと小さく揺れる青い宝石がかわいかった。…って、これかなり高価な物なのでは…?

「満寵殿、お礼にしては高価すぎませんか…?」
「そんなことないよ。ただななし殿に合いそうだなと思ったんだ」
「私が身につけていい代物じゃない気がしますが」

 そもそも満寵殿は女の人にこういう物を贈る意味をわかっているんだろうか。大切な人に贈る物であって、部下のお礼にするようなものではないんだけど。でも頂いてしまったものは仕方がないし、今後満寵殿の奥方になられる人に見つからないように自室に飾っておくのがいいかもしれない。

「じゃあ、ありがたく頂きます。部屋に飾っておきますね」
「え?つけてくれないのかい?」
「つける時がないので…。これだけ綺麗なものを毎日見れれば幸せですよ」
「せっかく似合うと思ったのに…。そうだ、今度の宴でつけるのはどうかな?」
「え!?今まで宴でそういう物を身に付けたことがないからかえって緊張するんですけど」
「宴にいる女性は皆着飾っているじゃないか。ななし殿が同じ格好をしても変なことじゃないよ」
「それはそういう立場の女の人が着飾っているのであって、私の立場では着飾る必要ないですよ」
「そんなことないよ。一度試してみればいいじゃないか。甄姫殿や蔡文姫殿と仲がいいんだから、何とかしてくれるだろう」

 何だったら私から文を出して頼んでおこう、と言い出したから全力で阻止した。満寵殿はどうしても次の宴で私にこれをつけさせたいらしい。頂いてしまった手前、そこまで望まれるなら一回くらいはつけた方がいいのか…。

「それにしても、あの子はかわいかったね」

 どうすればいいのか悩んでいる間に満寵殿の中では簪の話は一段落ついたらしくて、いつの間にか話題が変わっていた。緩んだ表情は親馬鹿そのものだった。

「また来てくれないかな。今度は私も一緒に街へ行きたいな」
「それはご両親に相談してみてはどうでしょう」
「こちらに来る用事を作ればいいんだもんね」

 今絶対に策士の才能を無駄遣いしてる気がする。そんなこと考えずにまた遊びにきてと言えばいいし、自分から遊びに行けばいい。そもそも、その子に執着しなくとも、子供と遊びたいなら自分の子供を作ればいいだけの話だ。

「そんなに子供と過ごしたいなら、早く結婚して子供を作ったらどうですか?」
「え?」
「満寵殿はご長男ですし、そろそろ後継ぎの事も考えなければいけませんよ」
「ななし殿からそう言われるとは思わなかったな…」
「どういう意味ですか。私だって上司の後継ぎ問題くらい心配しますよ」

 確かに今まで満寵殿とこういった話はしたことなかったけど、常に心配はしている。奥方がいれば今までみたく夜通し飲むこともできないし、奥方の性格によっては女の私が満寵殿の下で働くこともできなくなるだろう。家に帰るよりも城や戦場で一緒に過ごす時間はとても長いのだから。満寵殿は私のことをただの部下と思っているだろうけど、奥方からしたら自分よりも一緒にいる邪魔な女と感じるかもしれないし。考え直さなければいけないことが多いから、早めに対処できるならしたい問題なんだけど。

「今はこうしてどうやったら国が良くなるのかとか、国を守ることとか、そういう事しか考えられないんだよね」
「それも大事な事ですけどね」
「後継ぎはどうとでもなるよ。養子を取ることだってできるから」
「そんな気楽な考えで大丈夫ですか…」
「それに、ななし殿と策の話をしたり酒を飲んでいる方が楽しいからね」
「…おじさんになったら嫁ぐ人に嫌がられますよ。女だって結婚するなら若くてかっこいい方がいいに決まってるんですから」
「ななし殿もそうなのかい?」
「さあ、どうでしょうね」
「どうしてはぐらかすんだい。答えてくれたっていいじゃないか」

 ずいと近づいてくる満寵殿を、仕事してくださいと押し返した。早く済ませなきゃいけない問題は確かにあるけれど、満寵殿本人がこう言うならもうちょっとだけ今のような関係を楽しんでいてもいいのかな。


20190506

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