満寵と猫と戯れる話


 今日は久々に満寵殿の屋敷で飲むことになった。忙しかったのと、近いからという理由で私の部屋に来ることが多かったんだけど、今日はいい酒が手に入ったから来てくれと言われたのだ。満寵殿の用意してくれる酒は本当に美味しくて、さすが満寵殿位になるとこういう酒を頻繁に手に入れられるんだなと感心する。
美味しい酒だから杯は進み、久々に早く酔いが回ってきて、ふわふわと良い気持ちになってきた。満寵殿との会話が途切れたとき、窓の方からにゃーという声が聞こえてきた。声のした方を見てみると、茶色の猫が窓から顔を覗かせていた。

「猫…!」
「最近よく来る子なんだ。今日はななし殿に会いに来たのかな」
「かわいい…」

 窓の方に行き猫の顔に手を近づけたら、自分からすり寄ってきた。前足を窓の縁にかけて立っていたから、持ち上げて自分の膝の上に乗せたら、こちらに背を向けて丸まった。

「とても人懐っこい子でね、女官からも可愛がられてるんだ」
「いい子ですね。本当にかわいい」

 頭や首の辺りを撫でたら、気持ち良さそうに喉をごろごろと鳴らしている。酒を飲もうと手を休めて杯を取ったら、もっと撫でろと言わんばかりに振り返って見上げてきた。

「ああ、ごめんね」
「ななし殿は猫好きなのかい?」
「はい、動物は好きです」
「さっきからとても顔が緩んでいるよ」
「えっ、そうですか。だらしなくてすみません」
「別に構わないさ。私も動物を見ていると日々の忙しさを忘れて穏やかな気持ちになるからね」

 満寵殿は立ち上がって私の所まで来ると、しゃがんで猫を撫で始めた。いつもそうされているのか、猫も自ら満寵殿の手にすり寄って満足そうな顔をしている。

「動物といえば、熊猫って聞いたことあるかい?」
「白黒の熊みたいな動物ですよね。私の軍にいる西方出身者が見たことあると話をしていました」
「私も人から聞いた話しか知らないんだけど、見てみたいものだね」
「体は大きいけど、仕草がかわいいみたいです」
「子供なんかころころしていてたまらないみたいだよ」
「見たいですね…触れるのかな…」
「触れるんじゃないかな。今度探しに行ってみるかい?」
「行きたいですけど、そんな遠出できる時間ないですよ」

 熊猫の話に熱中してしまい、膝に乗せた猫のことを忘れてしまっていた。猫は忘れるなと言っているのか、にゃあと鳴きながら満寵殿の手にちょいちょいと触れている。爪を立てられたのか、痛いよ、と満寵殿が呟いた。

「熊猫よりも先にこの子だね。ななし殿、よかったら名前をつけてくれないかな?」
「私がですか?私そういう感性皆無なんですが…」
「私がつけようとしたら、女官に大反対されたんだ」
「ちなみに何てつけようとしたんですか?」
「城の名前を」
「それはないですね」
「そんなに駄目かな。じゃあななし殿は何てつけるんだい?」
「うーん…この酒の名前とかどうですか?かっこいい名前だったと思うんですけど」
「猫に酒の名前…」
「満寵殿だって城の名前じゃないですか」
「わかった、ななし殿の候補と私の新しい候補で女官達に決めてもらおう!どっちの方がましかわかるよ」
「絶対に私の方ですよ!」
「いいや、城の名前だって奥深いからね」

 満寵殿と私の言い争いを割くように、またにゃあと鳴き声が響いた。どっちでもいいよ、そう言っているみたいだった。
 後日満寵殿にどうなったか聞いてみたら、満寵殿の候補も私の候補も即却下されたらしい。結局女官達が決めたらしく、可愛らしい花の名前が付けられていた。ちょっと待って、あの子女の子だったんだ…。


20190518

トップページへ