魏軍師の女性談義2
切りのいい所まで仕事を終わらせようとしたら約束の時間を大幅に過ぎてしまった。今夜一緒に飲まないか?と郭嘉殿に誘われていて、急いで指定された隠れ処へと向かう。たまに軍師で飲む場所だから、きっと今日も何人か集まれるのだろう。全員揃うことはなかなかないけど、 誰が来ているのだろうか。
「遅れて申し訳ありません」
「待っていたよ」
中に入ると、郭嘉殿、賈詡殿、荀ケ殿、荀攸殿…つまり全員いた。酒もかなり進んでいるようで、特に郭嘉殿と荀攸殿の周りに酒器がたくさん転がっている。郭嘉殿に目の前に座るよう促され、座ったらすぐに杯に酒を注がれた。
「来て早々悪いんだけと、今日は満寵殿の話を聞いてもいいかな?」
「ええ、どうぞ。前に話していた続きが聞きたいですか?それとも今考えている新しい罠のことですか?」
「いや、その話じゃなくて、ななし殿のことだよ」
「ななし殿?」
「最近随分と仲が良いみたいじゃないか」
「学問を教えていますからね」
「本当にそれだけか?」
「それだけですよ。学問を教えて、その後に策の話をしながら飲む。それ以外何もありません」
杯を空けたらすかさず次の酒が注がれた。賈詡殿は納得がいかないようで、難しい顔をしている。そんな顔をされてもそれ以外何もないんだから仕方がないじゃないか。
「酒を飲むのもお互いの部屋が多いみたいだけど」
「それはどちらかの部屋で教えた後にそのまま飲みますからね」
「満寵殿の部屋はいくつかあるだろうけど、ななし殿は寝室と一緒になっている部屋だろ?男女で飲んでてそこに寝台があって、何もないのはおかしくないか?」
「ははっ、みなさんが期待してるようなことは本当に何もないですよ」
皆の顔を見渡したら、面白くない、残念そうな顔をしていた。もしかしてこの話をするために今夜ここに集まったのだろうか。そうだとしたらそれは滑稽だし、特にそういう話題に興味のなさそうな荀ケ殿がここにいるのはますます笑えてくる。まあ荀ケ殿の場合は郭嘉殿に上手く言いくるめられただけかもしれないけど。
「じゃあ質問を変えようかな。どうしてななし殿の部屋にも行くようになったんだい?」
「大した理由じゃないですよ。いつも使っていた部屋が散らかりすぎていて使える状態じゃないと言ったら、書簡だけ持ってきて頂けるなら私の部屋で教えて下さいって言われたんです」
「ななし殿から誘ったのか」
「意外と大胆だね」
「いや、あの戦ぶりを見ていたらあり得る事だと思います」
賈詡殿の言う誘ったの意味はかなり邪な意味が含まれていそうだし、それに乗る郭嘉殿もようやく楽しくなってきたという顔をしているし、荀攸殿は郭嘉殿に沢山飲まされてかなり酔っているんだろう。荀ケ殿はすました顔で静かに酒を飲んでいるけど。
「満寵殿はそこで期待しなかったのかい?」
郭嘉殿の質問が今日ここにいる皆が知りたかった事だと思う。直球に聞いてきたなと思いながら、初めて誘われた時の事を思い返した。
「まあ…最初誘われた時期待してなかったわけではないですけどね」
「そう考えるのが普通だと思うよ」
「だからななし殿の様子を見てから決めようと思ったんですけど…。彼女はそういう事は何も考えてなくて、ある程度酒が進んでいたところで次の日早くに調練あるからと部屋を追い出されましたよ」
「自分から誘っておいて、追い出したのか」
「彼女は学問を教わって、酒を楽しむことしか考えてないみたいですね」
「軍の違う上官と言えど、大した度胸の持ち主だね」
「そこがななし殿の良い所ですよ」
賈詡殿の言うように、ななし殿の行動は失礼と感じ取る人もいるかもしれない。だけど私は純粋にななし殿と話しているのは楽しいと思うし、勉強になることもある。女性特有の視点というか、私達五人が集まっても出てこないような発想で話を楽しませてくれる。
「満寵殿はこの先どうしたいのですか?」
「それ私も聞こうと思っていたよ。ななし殿のことをどうするつもりなんだい?」
「郭嘉殿、私はそういうつもりで聞いたのではありません」
「でも荀ケ殿だって気になるだろう?」
「私はただ、この先もずっと軍の違うななし殿に教え続けるのは厳しいのでは、ということを言いたいのですよ」
「そう、それなんだけど、私はななし殿を配下にできないか考えていてね」
「そこまで入れ込んでるんですね」
「本当に賢い人ですよ。いやあ、みなさんにも是非会って話をして頂きたいですね」
「賢くて、酒が強くて、美人。私はぜひともご一緒したいな」
「だから郭嘉殿は下心が見えすぎです」
「はは、ななし殿は本当に強いですよ。酔い潰れた所は見たことないですからね」
「それがまた楽しいんじゃないか。どうやったらその理性が崩れて酔うのか、私達の腕の見せ所だよ」
「私達、ってまとめないで下さい。そう思ってるのは郭嘉殿だけですよ」
「それはどうだろうね」
その瞬間郭嘉殿と目が合った。いつもの何か含んだような微笑みを向けられる。郭嘉殿は私がななし殿を酔い潰したいと思っているのだろうか。確かに酔ったらどうなるのだろうとか、あのしっかりした喋り方が変わるのだろうかとか、気になる事はたくさんある。郭嘉殿のような下心ではないけれど、これも下心と言われてしまえばそうだろう。郭嘉殿の問いかけには郭嘉殿と同じようにただ笑って返した。
20190529