色んな武将と飲む話


 街の視察を終えて部屋に帰る途中、李典殿に捕まった。皆で飲んでいたらしく、既に出来上がっている人もいる。曹休殿なんか伏せてるし、私を呼ぶよりも早く解散した方がよかったんじゃないかと思いながらも、差し出された酒を受け取った。

「ななし!仕事お疲れ様!」
「李典殿も相当酔ってますね…」

 楽しそうなのは良いことだけど、手元が危なっかしいから酒や食べ物を溢さないように気を付けてほしい。酒を溢される前にいくつか料理を皿に取って確保しておいた。

「何の話でここまで盛り上がってたんですか?」
「決まってるだろ!男が盛り上がると言えば、女の話だ!」
「その話で盛り上がれるのは李典殿だけのような気がしますが…」
「ななしの中で楽進と曹休殿の印象がどんなものか検討は付くが、所詮男なんて助平な生き物だからな」
「李典殿と一緒にしないで下さい!」
「楽進、ななしが来るまでの話をしてもいいんだぜ?」
「そ、それは…」

 元々酔って赤かった顔を更に真っ赤にさせて、手で覆ってしまった。乙女のような仕草に笑うと同時に、よほど恥ずかしい話でもしていたんだなと思う。

「この前の宴で思ったんだけど、かわいい女官が増えたよなって話をしてたんだ」
「増えるも何も、かわいい女官は多いじゃないですか」
「いやー、俺達は普段自分の所の女官としか関わらないからさ、ああいう宴で他所の女官を知るわけよ」
「成る程。それでみなさん気になる女官ができたってことですね」
「みんなってわけじゃないんだけどな」

 李典殿は含んだ言い方をした後、ちらりと曹休殿を見た。曹休殿は相変わらず伏せていて、規則的に肩が上下している。

「李典殿は今どなたに恋い焦がれてるんですか?」
「郭嘉殿の所にめちゃくちゃ可愛い女官がいた!」
「ああ…。だって郭嘉殿の女官はかわいい子を揃えてるって有名じゃないですか」
「いやそうなんだけどさ、その中でも可愛い子がいたんだよ!小さいのによく働く子で、どんなに忙しそうにしてても笑顔で応えてくれる子でさ!」
「…その子、知ってるかもしれません」
「本当か!?紹介してくれると嬉しいんだけどな」
「その子で合ってるかわかりませんし、違ったらどうするんですか」
「それはそれで楽しむ」
「うっわ…」

 男ばかりの宴ではよく行われる話だけど、見知った将の生々しい話はあまり聞きたくなかった。それに私は知り合いかもしれない子が狙われているというのにはいどうぞと差し出す程軽率な女でもない。楽進殿はまたか…という顔をしていたから、私が来る前も同じ話をしていたんだなと察して、少しだけ同情した。

「あー、あの小ささで頑張り屋。守ってあげたくなるよなー」
「そーですね」
「でも、郭嘉殿は自分の所の女官も食ってるって噂だから、その子ももしかして既に…」
「同じ事をしようとしてる李典殿に同情はしませんよ」
「酷いな。俺だって純粋に恋い焦がれることだってあるんだぜ」
「そーですか」
「なあ、さっきから冷たくないか?」
「いつも通りですよ。ね、楽進殿?」
「李典殿はついこの間まで料理屋の娘に夢中だったのに…どうしてこう変わりやすいのでしょうか…」
「楽進、お前は一人の女に焦がれすぎなんだよ!いい加減告白するかいい雰囲気に持っていけばいいのに」
「楽進殿には長年の思い人がいるんですか?」
「長すぎて焦れったいんだよな。いい雰囲気なのに関心な所で怖じ気づいてさ。一番槍のお前はどこ行ったんだよ」
「李典殿と一緒にしないで下さい!」
「あ、もしかして既に人妻とか?年上に好かれるからなあ」
「違いますよ!違うと思いたい…」

 思い当たる節があったのか、語尾が弱くなっていって、頭を抱えてしまった。この目の前に伏せている二人をどうすればいいんだろうか。
 大きくため息をついたら、後ろから背中を叩かれた。この叩き方には覚えがある。振り返ると、酒器を持った夏侯淵殿がいた。

「いやー、遅くなってすまん!ななしもいたのか!」
「夏侯淵殿、待ってましたよ!ななしは途中で見つけたので拾いました」

 李典殿は夏侯淵殿から酒器を取り、夏侯淵殿の杯に並々と注いだ。その流れで私の杯にも入れてくれたけど、酔っ払いの危ない手付きだったから手に思いっきり溢れてきた。勿体ないと思いながら手に流れた酒を口で拭ってから、杯に口を付ける。そしたら二人がじっと見てきたから、何かまずいことでもしたかと杯を置いて背筋を伸ばした。

「私何かしましたか」
「いや…、何かしたと言えばしたことになる…か」
「俺は娘の成長を目の当たりにした気持ちだぜ…」
「いや何ですか。手にこぼれたのを舐めたのはちょっとはしたなかったかもしれませんが、布がなかったから仕方がないでしょう」
「それだよ!ななしに色っぽいと感じる日がくるとは思わなかった…」
「は……」
「今のは、そうだな。好いてる男以外にはやらない方がいいな」
「え、いやそんなに頻繁にやらないですけど、ただ舐めただけですよ」
「舐めるって動作が既にやばいの。覚えとけ」
「はあ…」
「曹休殿、起きましょうよ。気になってるななしが目の前にいますよ」
「気になってる…?何言ってるんですか…」
「ななし殿…?違う、これじゃない…」
「は!?私はななしですけど!?」
「ははは!曹休はすっかり着飾ったななしに夢見てるんだなあ」
「夢見てるというか、化粧や服での変わりように驚いてるだけなんですけどね」

 おそらくこの前の宴のことを言っているのだろう。満寵殿から頂いた簪を付けるという話が飛躍しすぎて全身いじられた時の話だ。確かに曹休殿は一番最初に会ったからというのもあるけど、あの驚き様は酷かった。

「曹休殿に限らず、良い意味でも悪い意味でも気になってる将は何人かいたからな」
「悪い意味って…」
「あれがななしなわけない、ってな感じで」
「まあ、それは否定しませんよ…。私だってあんなんになると思ってなかったですから」
「そうか?俺は似合ってると思ったけどな」
「いや似合ってはいたんですけど、普段との差がありすぎなんですよ。特に…いや、これはさすがに言わない方がいいか」
「何ですか。そこまで言われたら気になります!」
「…ななしって意外に胸あるよな…。皆そこに注目してたんだぜ」
「……」
「だから言いたくなかったんだよ!でもな、あれだけ胸元開いてて見るなってのが無理だからな?」
「それは…甄姫様にも言いました…。でも、同じ事を私に言えるのかって言われて何も言い返せなかったです…」
「甄姫殿は凄いからな」

 そんなに胸元を見られていたのかと思い、今日はきっちり閉めているにも関わらず胸元を押さえた。確かに体をずっと動かしていた割にはついてしまって、女として喜ぶべき事なんだろうけど、戦においては邪魔でしかないからさらしできつく巻いている。女らしさを見せないように普段は首元まである服を選んできたけど、かえってそれがこの前との差を大きくしてしまったんだろう。…だからさらしを外したくなかったのに。

「まあ、ななし、あれだ。俺達が変な気起こすことはないから、何か困ったことがあったら遠慮なく言えよ」
「そうそう、ななしの胸に騙されて変な男が寄ってきたら俺が追い払ってやるからさ」
「むしろどんな男が引っ掛かるのか気になるな…」
「あ、それ俺もすげー気になります」
「言わせておけば…。心配するようなことは何も起こらないと思うので結構です!」

 別に男に寄ってきてほしいわけでもないけど、あまりにも女として残念なことを言われ続けている気がしたからちょっと強気に言ってしまった。

「そういえば宴の時の満寵殿はどんな反応だったんだ?」
「いたって普通でしたよ。誰かさん達と違ってすぐに私だと気付いてくれましたし、いつも通り酒を楽しみました」
「へえ…。やっぱ満寵はすぐに気付いたんだな」
「軍師殿は観察眼に優れてますからね」
「服について何も言われなかったのか?」
「私のかと聞かれたから甄姫様のだと答えました」
「それだけか?」
「はい」
「やっぱり本人に聞くんじゃなくて離れたところから見てたいな」
「ですね。あ、また甄姫殿から服を借りて、それでさっきの舐めるやつやってみろよ。満寵殿の反応見てみたいわ」
「何でですか。やりませんよ」
「じゃあせめて舐めるやつだけでも!頼む!」
「やりません!」

 それからも酔った李典殿はずっとこんな調子だし、意識の戻ってきた曹休殿と楽進殿の話に移行してからがまた長かった。夏侯淵殿も飲み足りないようで帰る様子もなく、お開きになったのは夜中だった。酒が入った状態で寝るのが遅かったから、案の定次の日は寝坊して朝から忙しい一日を過ごした。


20190709

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