兵に告白されるのを満寵に聞かれる話
いつも通り仕事を終わらせて部屋で酒を飲んでいて、会話が切れた時にななし殿にずっと聞こうと思っていたことを聞いてみた。名前を呼ぶと、私が余程難しい顔をしていたのか、背筋を伸ばして向き合ってきた。
「今日誰かに告白されていなかったかい?」
「え…」
「ああ、ごめん。決して隠れて聞こうと思ったわけではなくてね、たまたま側を通ったんだよ。そしたらななし殿の声がして、声をかけようと思ったら、そういう最中だったみたいでね。荀ケ殿と一緒にいたし急がなければいけなかったからすぐにその場を発ってしまったんだけど」
我ながら言い訳がましく長々と話してしまったけど、本当のことだし、あそこまで聞いてしまって結末を知らないのももやもやして気になってしまうからいっそのこと本人に聞いた方がいいと思ったんだ。ななし殿は少し言い辛そうな顔をしていたから嫌な気分にさせてしまったのなら申し訳ないと思い、言葉を続けた。
「言いたくなかったら無理に言わなくていいからね。中途半端な所まで聞いてしまったから気になって仕方がなかったんだ。荀ケ殿にも何度もいいのかと言われたからどうなったのか聞いておきたかったんだけど、これはななし殿の問題で私達が顔を突っ込んでいい問題ではないから」
「断りましたよ」
「え、そうだったんだ」
「だって知らない人だったんですもん」
そう言い捨てるななし殿は心底嫌そうな顔をしていた。杯が空になっていたから注ぐと、それもすぐに飲み干した。もう一度注いだら、さすがに二度目はなかった。
「最近投降してきた人だそうです。一度話したことあれば顔は覚えてるんですけど、顔覚えてないからきっと一度も話したことないんですよ。そんな人に私の何がわかるんだと思って、お断りさせて頂きました」
「そうだね、一度も話したことない人だとそうなるね」
ほっとした気持ちを抑えて、私も杯に入った酒を飲み干した。そしたらすぐにななし殿が酒を入れてくれた。それにしても一度も話したことないななし殿に惚れ込むとは、やはり見た目に惹かれた、ということなんだろうか。一目惚れというやつだろう。
「しかも一度断られたくらいじゃ諦めないとか言ってて、また来るとか言われたんですよね。書庫で調べ物していた所を何度か見ていたようで、女官と勘違いしてるんじゃないかと」
「ななし殿には最近調練に入れないで調べ物を任せていたからね。自分の立場をきちんと話したのかい?」
「話そうと思ったんですけど、こちらの話を全く聞いて貰えなかったというか…」
「それは困ったね」
「ちょっと話しただけでもかなり疲れたので、できればもう話したくないです」
あまり人の愚痴を言わないななし殿がこう言うのだから、相当疲れたんだろう。やっぱりあの時変に気を使わずに声をかければよかったと後悔する。ななし殿が付きまとわれないように私ができることを考え、すぐに提案した。
「そしたら明日からしばらくの間私と共に行動してもらおうかな」
「え、でも他の将軍達の所を回っているじゃないですか」
「だからだよ。私と共に行動していればななし殿が私の副官だとわかるだろう」
「そうですけど、お邪魔になるかと…」
「ななし殿なら何も問題ないよ」
こういう時の聞き分けはあまり良くないななし殿だけど、今回ばかりはよほど参っていたのか、じゃあ…とすぐに首を縦に振ってくれた。
ななし殿がそれなりに人気なのは噂を聞いているから知っていたけど、最近、特に私の元に来てからは言い寄られることは減ったと思っていた。色々な噂が流れているからだと思っていたけど、最近やってきた人はその噂を知らない可能性もある。話を聞く限りあまり周りのことが入ってこない人みたいだしね。荀ケ殿にはあれからずっと本当にいいのかと言われ続けたけど、ななし殿の態度を見ていると何も心配はいらなそうだ。
「満寵殿、先に謝っておきます。私の我慢の限界がきて手を出してしまったらすみません」
「はは、それは大変だ。ますます私がついていなきゃ心配だ。他の将軍の兵とのいざこざは避けたいからね」
「すみません…」
「冗談だよ。仮に問題になったとしても、私が何とかするさ」
ずっとこちらにいるななし殿と最近投降してきた兵、どちらの方が信用されているかなんて誰が見ても一目瞭然だろう。ななし殿も事を荒げたくないからと優しすぎる所があるから、たまには思いっきりやってみてもいいと思うんだけどね。まあ、そこがななし殿の良いところだからやっぱり私が見守るのが一番かな。
20190727