満寵と徹夜をする話
最近の満寵殿はとても忙しそうだ。ふらりといなくなったと思ったら書庫から大量の書簡を抱えて持ってきたり、ずっと何かを書き続けたり。朝執務室に行っても既にいるから、ずっとここに籠って仕事をしているのだろう。なのでもちろん満寵殿との晩酌はしばらくできていない。
満寵殿が今している事は恐らく機密事項に関わることだから私が手伝えることは少ないのだけれど、何か出来ることがあるんじゃないかと思って今日は帰っていいよと言われてもそのまま残ってみた。
「あれ、まだ何か残っていたっけ」
「いえ、何か手伝えることはありませんか?ここのところ徹夜で仕事をしていますよね」
「大丈夫だよ」
「もう何日寝てないんですか?さすがの満寵殿も体を壊しますよ」
「仮眠は取っているから平気さ」
そう言う満寵殿の声は確かにいつもと変わらないけど、目の下の隈は日に日に酷くなっていってる気がする。元々徹夜で計略を練る人だから慣れてはいるんだろうけど、見てわかる程に体に影響が出始めているのはよくない。
「じゃあ私も一日くらい平気なので徹夜します」
「そうくるか。参ったな…」
眉尻を下げて筆の手を止める満寵殿を横目に、手をつけられそうな書簡をいくつか引っ張っていく。見慣れたものなら普段満寵殿がやっているものだろうという判断でどんどん取っていったら、満寵殿に制止された。
「やるならこれよりもあっちを整理してもらってもいいかい?」
「わかりました」
「本当に申し訳ない」
もう一つの机に固まっていた書簡を指差されたからそちらに移動する。言われてみれば満寵殿が連日の徹夜を初めてからここの書簡は増える一方だった。書簡に目を通して、わかる範囲から進めていく。できるだけ満寵殿の集中力を切らしたくないから聞きたいことはまとめて聞こうと思って振り分けた。
書簡を半分ほど片付けた頃、眠気がやってきた。ずっと同じ体勢でいたから体を伸ばすと、ぱきぱきと腰が鳴った。ちらりと満寵殿を見たら、変わらず集中して書き進めている。普段はあんな感じなのに、こういう事に関しては本当に凄いと思う。とにかく集中力が凄い。
「ななし殿、眠かったら寝ていいからね。これは本来ななし殿の仕事ではないのだから」
「いえ…。大丈夫です」
筆が止まったことに敏感に反応してくれた満寵殿。集中しているのによく周りを見ている。満寵殿の言葉に甘えたい気持ちは山々だけど、満寵殿はこれを何日もこなしていると思うと自然と目が覚めてきた。眠気を飛ばすように頭を振り、筆を手に取る。
それからお互い一言も喋らずに黙々と筆を動かした。鳥の声が聞こえてきて、窓から見える景色は白みがかってきた。今日の予定は何だろう、とぼんやりする頭で考えていたら、肩にとんと触れる手が。
「もうすぐ朝になるから、仮眠を取った方がいいよ」
「満寵殿はいつもこの時間に仮眠を取っているのですか?」
「そうだよ。あの長椅子で横になるといい」
背中を押されて半ば強引に長椅子に寝かせられた。満寵殿はどこで寝るんだろうか。人が寝転がれる大きさの椅子はここにしかない。満寵殿は机に戻り、筆を手に取った。
「満寵殿は?」
「これを終わらせてからにするよ。ああ、場所は大丈夫。私はどこでも寝られるからね」
机を指でとんとんと叩いたから、そこで伏せて寝るのかもしれない。たまにそういうことをするから顔に墨がついたりするんだと言いたかったけど、眠気と戦っていた体を横にしてしまったせいで、瞼が落ちてきた。それでも満寵殿に何か言わなければと思って言葉を発したけれど、満寵殿は笑っているだけだった。寝惚けたことを言っていると思われたんだろう。ここで私の記憶は途切れた。
20190826