満寵と山賊退治をする話
今日は満寵殿に連れられて軍議に参加している。最近は満寵殿の口添えで参加させもらえることが増えてきた。今日は各方面に出ていた斥候の報告が主な話だった。情報によると、最近山賊の活動が活発らしく、色んな村が荒らされているらしい。山賊が拠点にしている場所を地図で確認すると、何の偶然か、私の故郷の近くだった。
「あ」
邪魔にならなよう満寵殿の後ろにいたのに、声を出してしまい視線を集めてしまった。
「失礼しました」
「よい。何か気になる事でもあったのか」
「山賊が拠点にしている場所、私の故郷の近くだったもので…。話を止めてしまい、申し訳ありません」
「そうであったか」
殿の問いに、出来るだけ簡潔に答える。印が付いていないから故郷はまだ大丈夫だろうけど、襲われるのも時間の問題だろう。殿は、ふむ…。と少し考えた後、口を開いた。
「土地勘のある者がいるのは心強いな。満寵、ななし。お主らは急ぎここへ向かい、山賊の撃退に当たれ」
「承知しました」
「はい」
軍議が終わってからすぐに遠征の準備に取りかかった。山に挟まれて遠回りな道しかないため、移動に時間がかかるのだ。故郷への、もとより父への書状は私が作成することになり、満寵殿の横で筆を執っている。
「ななし殿の故郷はここだったんだね」
「はい。山に囲まれた田舎です」
「田舎と言うにはかなり大きな街のようだけど」
「山の多さと土地の広さだけが取り柄の街ですよ」
確かにこの辺りでは一番栄えている街かもしれない。その分役人の数も多いから、山賊の拠点から近くても今まで襲われなかったのだろう。近隣の村から荒らしていき、そこに役人を分散させて街を手薄にしてから襲う魂胆なのかもしれない。もしそうだとしたら、一日でも早く街に行かないと。
父への書状の内容を確認し、満寵殿にも確認を頼んだ。満将軍筆頭に行くことや、どれくらいの兵士を連れていくとか、何日で向かうとか、その程度しか書いてないけど、あまりこういった仕事はしないから、いくら父に向けた書状と言えどももし何か落ち度があれば満寵殿の名を汚すことになってしまうため、大事な一手間だ。なのに確認を終えた満寵殿の第一声は気の抜ける言葉だった。
「お父上への書状なのにななし殿の近況報告はいいのかい?」
「え…軍が絡んでるから私情は挟まない方がいいかと思ったんですが…」
「別にいいじゃないか。まあ、すぐに会えるから募る話はその時でもいいのか」
私もななし殿のお父上に会えるのを楽しみにしているよ、とついに山賊撃退とは全く関係ない言葉まで出て来て、私は満寵殿を父に会わせに帰郷するのかという錯覚に陥ってしまった。
満寵殿の統率の取れた指揮のお陰で、軍の移動、山賊の撃退は迅速に片がついて、今は被害を受けた周辺の村の修復を行っている。もちろん満寵殿の指揮が的確だったこともあるけど、父もできるかぎりの協力をしてくれたために、全てが早く済んだ。
「この度は本当に助かりました。こうしてななし殿のお父上にもお会いできて、嬉しい限りです」
「こちらこそ迅速な対応に感謝致します。もう私どもの力では抑えられなくなっていて書状を出そうと思っていた所だったのですよ」
「被害に遭われた村は気の毒でしたが、私達も共に復興に努めますので、必要なことがあれば何なりと申して下さいね」
父と上官が話している図というのは何と言うか…とても気まずい。満寵殿だから余計に気まずいのかもしれない。以前の将軍だったら何も思わなかっただろうし。話を振られないよう、二人の会話を顔を下げて聞き流していた。そしたら母がやってきて、父に何か耳打ちをした。
「満寵様、今夜からはこちらでお休みになられてはいかがでしょうか」
「お心遣いありがとうございます。ですが、我々は村の近くに軍幕を張っておりますので…」
「もちろん、兵士の方々の部屋も用意しております。遥々やって来て頂いてるのにずっと外というのも体が疲れるでしょうから」
返答に困っている満寵殿が振り返ったから、私は父の言う通りにしましょう、と意味を込めてこくんと頷いた。ずっと姿を見せていなかった母が来たということは、もてなしの準備ができたのだと思う。私は今は軍の人間だけど、この家の人間として満寵殿や兵士達をもてなしたい気持ちもあるから、遠慮はしてほしくなかった。
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。兵を集めて参りますので、一度軍幕に戻りますね」
「かしこまりました。あ、ななしをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。娘さんの久々の帰郷ですし、短い時間ですが家族でゆっくりとお過ごし下さい」
立ち上がる満寵殿に視線を向けたら、笑顔で制された。まあ、軍幕を片付けて兵士を呼ぶだけだから満寵殿の厚意に甘えよう。その分、もてなしの準備を手伝えばいい。その時は軽い気持ちでそう思っていた。
20191112