満寵と山賊退治をする話2


 満寵殿を見送った後、母に連れられて部屋に押し込まれた。部屋には数人の女官が構えていて、この感じ、とても身に覚えがある。反射的に体を反転させて部屋から出ようとしたけど、扉の前には母がいて出られず、甄姫様の女官にも負けない屈強な女官に奥へと引っ張られて衣類を剥がれた。

「ちょ、ちょっと!何するの!」
「奥方様からの申し付けです。申し訳ございません」
「着替えなら自分でするから!」
「着替えだけじゃなくて体も綺麗にしなさい。将軍の前でもこんなに汚いのですか」
「遠征中だからです…!」

 しばらく野外で過ごしていたから汚いのは認めるけど、体を拭くことくらい自分でできる。なのに、母と女官の圧力が凄すぎてやっぱり抵抗できず、されるがままになった。女官はどうしてこういう時の力が凄いのだろうか。

「こんなに体に傷を作って…。これでは嫁に行けないではないですか」
「どっちにしろこの年の女を娶ってくれる変わり者などいませんよ」
「将軍は何と言っているのですか」
「満寵殿?傷の事は何も言われたことないです」

 そういえば満寵殿に戦での傷の事を言われた事は特になかった。顔に出来た引っ掻き傷などにはすぐに反応していたような気もするけど、そもそも体の傷は見せたことがないから知らないと思う。体に残るような傷は前の将軍の時に出来たものばかりだったから。
 母は私が父の意志を継ぎ、軍で働く事にずっと反対してきた。手紙でも早く戻って嫁に行けという趣旨のものをたくさん貰っている。母の気持ちもわかるけど、今こうして満寵殿の元で働けることが何よりも充実しているから、私はやりたいようにやるつもりだ。
 母との会話はこれきりで、女官がせっせと体を拭き髪を結い、普段着ないような服に着替えさせられた。甄姫様にお借りしたお召し物に比べたらかなり露出は抑えられているけど、普段と違う格好で満寵殿や兵士達の前に出るのはやっぱり気まずい。

「準備が終わったら宴の準備の手伝いに来なさいね」
「はい」

 女官に化粧を施してもらっている時に母は最後の支度があるからと部屋を出て行った。程なくして化粧も終わり、鏡で自分の姿を確認したら、悪くない出来映えだった。甄姫様に施して頂いたものが気に入らなかったとかそういうわけではないんだけど、簡素だけど品のある服にそれに合わせた派手すぎない化粧、自分にはこのくらいが丁度良い。だけど髪は甄姫様に結って頂いた時の方が好みだ。今日のも簡単にまとめているはずなのに…。確認を終えたら女官にお礼を言い、母のいる厨房へと向かった。


 しばらく中での手伝いをした後、酒を振る舞うために部屋に行った。みんな既にたくさんの酒を飲んでいて、出来上がり始めている。私も飲みたい混ざりたいという気持ちを抑え、奥にいる父と満寵殿の所へ向かった。

「挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
「おお、ななし。もう手伝いはいいのか」
「はい。母にこの酒を持って行きなさいと言われたのでもう大丈夫だと思っています」
「そうだな。将軍、この酒はこの街で作られたとっておきなのですよ。是非召し上がって下さい」
「ああ、ありがたく頂きます」
「それにしても将軍の防衛に対する考えは本当に素晴らしいですね。私が現役だったら是非とも将軍について行きたいですよ」
「そう言って頂けると私も嬉しいです。ですがその意志は娘さんにちゃんと引き継がれていますよ」

 座って早々に自分の話になるとは思ってなくて、驚いて酒を少しこぼしてしまった。父と上官が話しているんだから勿論私の話題は出ると思っていたけど、それならば私のいない間に済ませて欲しかったんだけどな。

「娘はどうでしょうか。皆に迷惑をかけていないでしょうか」
「迷惑どころか、とてもよく動いてくれています。戦でも、それ以外でも。むしろ迷惑をかけているのは私の方ですよ」
「そんな滅相もない!逆はあれど将軍が迷惑をかけことなどないでしょう!」

 建前上、愛想笑いで首を振ったけど、これに関してはお互い様だと思っている。今日だって服の紐が縦結びになっていたから屋敷に入る前に直したばかりだ。

「お父上のその謙遜される感じ、ななし殿によく似ておりますね。ななし殿もかなり控えめなので、もっと自信を持っていいと思うんですけど」
「私は謙遜しているのではなくて、本当にまだ至らないと思っているんですよ」
「私からしたらそれがもう既に謙遜なんだよ」

 酒を注がれながらこう言われたけど、どうすればいいのか困り、とりあえず杯を空けた。満寵殿は私に劉備の所の張飛のようにでもなってほしいのだろうか。

「そういえばななし殿は奥方様似ですか?一度しか拝見できなかったのですが、似ているなと思いました」
「私は小さい頃は父にそっくりでした」
「そうなのかい?」
「かわいそうな事に、小さい頃は私に瓜二つでした。妻に似ればもっと容姿も良くなったのかと思います」
「そんな、とんでもない」
「ただ、妻は怒るととても怖いのです」
「ははっ、それはななし殿も同じだな」
「満寵殿!」

 母はここにいないのに、父は満寵殿の耳元に寄せて小声で言った。それにつられて笑う満寵殿もどうかと思う。

「でもななし殿は美しい娘さんですよ。軍の中でもよく噂になっていますし、以前告白されているのを見たこともあります」
「それは男ばかりの中にいるからそう見えるだけでしょう」
「満寵殿、その話は今しなくとも…」

 満寵殿に容姿の事で何か言われたことがなかったから恥ずかしくなってきて顔の熱が上がってきた。ぱたぱたと手で顔を扇ぎ、何とか冷まそうと試みる。
 それからもずっと私の話ばかり続いてしまい、いよいよ居づらくなってきた時に母に呼ばれて抜けることができた。宴も終わりに近づいてきたから片付け要員で呼ばれたのだろう。あの場から抜けられるなら何でも良かったから、すぐに立ち上がって身の回りにある空の器を集めて母の元へと向かった。


20191117

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