満寵と秋の夜長を楽しむ話


 だんだん暗くなるのが早くなり、夜が長くなってきた。冷たい風も吹くようになってきて、建物の中にいても何か羽織ってないと寒くて仕方がない。羽織と更にもう一枚薄手の布を体に巻き付けて酒を飲んでいた。

「そんなに寒いのかい?」
「寒いのはあまり得意ではありません」

 酒と一緒に白湯も用意して交互に飲んでいるのに、時折窓の隙間から入ってくる冷気でぶるっと身震いした。
 今日は城でも満寵殿の屋敷でもなく、街の近くにある隠れ処で飲んでいる。街に出たついでに民からいくつか酒とつまみと食材を頂いてしまい、城に持ち帰るには荷物になりすぎてしまった。それならば近くにたまに軍師のみんなと使う隠れ処があるからそこで飲んで荷物を減らそうということになり、今に至る。

「この国の冬は厳しいから大変だね」
「地獄のようですよ。できることなら布団から出たくないです」
「 ははっ、ななし殿でもそう思う時があるんだね」

 白湯が切れたから温め直そうと竈に向かう。軍師達がたまに使うと言っていたけど、その割には竈があったり何かの鼎があったりと、設備がしっかりしている気がする。鼎はともかく、竈があっても料理できる人いないんじゃないかな…。
 竈の周辺を見ていたら、調理器具があったり、干された野菜や肉があったりと、一応使われている形跡はあった。誰が使っているのかわからないけど、駄目にしてしまうならと思ってさっき頂いた食材と目の前にある傷みそうな食材を手にとって、切り刻み、鍋に突っ込んだ。



「軍師殿が使うって言ってましたけど、どなたの家なのですか?」
「誰の家だったかな…。郭嘉殿が飲もうと言う時によく使っているから、郭嘉殿のものかもね」
「郭嘉殿の…」
「掃除もよく行き届いてるし、使われている形跡があるから、よくここを使うんだろうね」

 郭嘉殿がよく使うと聞いて、自然と寝台へと目を移してしまった。家の広さの割にはしっかりとした大きな寝台だ。郭嘉殿の家、掃除の行き届いた部屋、使われた形跡のある竈、大きな寝台…これ以上はあまり想像しないことにしよう。
 気を紛らわそうともう一度白湯を取りに行った時、ずっと火にかけていた鍋の様子を見た。良い感じに具材が煮え、香りも立ってきた。近くにあった器を拝借して、並々に盛る。

「お口に合うかわかりませんが、どうぞ」
「これは?」
「あつものです。今日頂いた食材と、ここにあった傷みそうな野菜を使わせて頂きました」
「ななし殿は料理もできるのか…」
「調味料に限りがあったので質素な味になってしまいましたが」
「全然だよ。…うん、すごく美味しいね」
「それならよかったです」

 頂いた干し肉と生姜で何とかだしを出して、塩と他の食材で味を整えただけの簡単なもの。醤油などがあればもっとしっかりと味を整えられたんだけど、あるものだけで作ったから仕方がない。女官や料理屋の人が作る物に比べたらお粗末な物だけど、荷物を減らせた上に酒のつまみにもなるから許してほしい。あと傷みそうな食材がもったいなかったのもある。満寵殿に食べさせて大丈夫かと一瞬不安になったけど、満寵殿のお腹は強そうだし、大丈夫だろう。
 味見はしたけど、酒と共に食べるとより美味しく感じる。料理なんか久しぶりだったし、有り余りの物で急いで作った割には上手にできたんじゃないだろうか。もちろん、民から貰った食材が良かったのもあるけど。

「ななし殿は料理好きなのかい?」
「そうですね…家の事では唯一料理が好きでしたね」
「そうだったんだね。じゃあ今度ななし殿の作った料理をもっと食べたいな」
「満寵殿の女官の方が遥かに上手ですよ」
「私はななし殿の作ったものが食べたいんだよ」
「うーん…考えておきます」

 料理好きと言っても軍に来てからはめっきりしなくなったし、やっていない期間が長すぎる。そんなんで満寵殿に変なものを出すわけにはいかないから、一度どこかで練習しておきたい。だけど副官に竈を貸してくれる女官がどこにいるだろうか。また幼馴染を頼るしかないのかと思い、あの含んだような笑みが思い浮かんで、身震いした。


20191130

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