満寵と武器について語る話
「ななし殿はどうして今の武器を選んだんだい?」
朝の調練を終えて執務室に戻ると、筆を止めた満寵殿にそう聞かれた。いつもこの人は唐突な質問をしてくるけど、今日もまた突拍子もない質問をしてきたものだ。満寵殿の副官になってからかなり時間が経つのに、今更武器の質問とは。
「色々と試してみて、私は戦場では剣が一番扱いやすいなと思ったので今のものを使っています」
昨日途中で終わらせてしまった書簡を開き、筆の用意をしながら答える。
「さっき調練の様子を見ていたんだけど、ななし殿が珍しく槍を振っていたから疑問に思ったんだ」
「個人的に長物は好きなんですけど、自分の力が及ばなくて長い時間振り回す体力がないんですよね」
「なるほど。確かに女性がずっと扱うとなると大変そうだね」
兵に混じって色々な武器を扱っていた時を思い出し、懐かしい気持ちになる。槍や戟を振っていた時は体力もまだない頃だったからすぐにへばっていた。調練ではいくらでも平気だったのにと思うけど、経験を重ねてたどり着いた答えは鍛練と戦場は全く違うということ。いかに体力を温存して長く戦い続けるか工夫するのが私の生き残る術だった。
「満寵殿はどうして今の武器を選んだのですか?」
「私かい?そうだな…。私にはこれが扱いやすいと思ったからかな」
「つまり私と同じ意見ってことですね」
「そうなるね」
満寵殿の武器はとても特徴的だ。慣れるまでとても苦労しそうだけど、それを使いこなせているからさすがは満寵殿といったところだろう。
「ななし殿も使ってみるかい?」
「え?いや急には無理かと思いますが…」
そう言ったのに満寵殿は奥の部屋に行き、自分の武器を持ってきてくれた。はいと渡されたそれは見慣れた物のはずなのに自分の手に渡るとまるで全く別の物の様に感じる。
「意外と重いんですね」
「そうかな?それこそ長物と比べたら軽い方だと思うけど」
「私これを満寵殿みたく軽々振れませんよ」
「そんなに重いかな?ああ、でも色々な仕掛けを施しているから、元の物よりも重くは感じるかもね」
「仕掛け…知らない私が触れて爆発したりとかは…?」
「ははっ、それはないよ。でも敵の手に渡った時の事を考えたらそれもいいかもね」
「その際はちゃんと教えて下さいね…」
仕掛けが起動しないよう慎重に振ってみる。初めて扱う武器だけど、夏侯淵殿や楽進殿が使っている双鞭に比べたら重さもなくて確かに扱いやすいかもしれない。でもそれはただ振る場合であって、満寵殿のように色んな仕掛けを駆使して戦うとなったらもう頭が混乱しそうだ。その時何かに触れてしまったのか、武器から凄い震動がしてきた。
「うわああ…!?」
落として壊してしまったら大変だから離すにも離せなくて腕ごとぶるぶる震えていたら、満寵殿が笑いながら武器を取ってくれた。
「ははっ、大丈夫だよ」
「す、凄い振動でした…」
後遺症なのかまだ腕が震えているような感覚が残っていて、両腕をぎゅっと握る。確かに思い返せば敵を抉るような攻撃があったような気もする。一体どんな仕掛けをしたらこういう武器が出来上がるのだろうか。それにこの攻撃を受けた時の事を考えたら寒気がする。
「ななし殿も使ってみるかい?」
「いや、無理です」
「そこまで否定しなくても…。気が変わったら言っておくれ。ななし殿の扱いやすいように改良しておくから」
「あはは…ありがとうございます」
たまに自分の得意武器を部下に使わせたい人がいるけど、満寵殿の場合新しい武器の改良をしてみたいという方が主な理由なんじゃないかと思う。それはそれで気になるけど、さっきの振動で気持ちと体が負けているから、扱えるようになるまでかなりの時間を要しそうだ。
20200223