満寵と冬を過ごす話


 今日は満寵殿に頼まれた書簡を届けるために将軍の屋敷を訪れた。書簡を届けてその場で署名を貰うだけの簡単な用事だったのに、将軍が不在でただ時だけが過ぎていき、将軍が帰ってきたのは夜だった。昼に城を出たはずなのに外はもう真っ暗でとても冷えている。屋敷の中で待たせてくれたのがまだ救いだったけど、昼の日が出ている時の服装で来てしまったから屋敷を出たら夜になって完全に冷え込んだ外気にさらされ、一瞬にして体が冷たくなる。完全に感覚のなくなった手を脇に挟みながら小走りで城へと向かった。



「満寵殿、只今戻りました」
「お帰り。随分と時間がかかったね…って、顔真っ白だけど大丈夫かい?」
「とても寒いです…」
「指先は真っ赤だ。このままだと霜焼けになってしまうよ」

 満寵殿は私から受け取った書簡を机に置くと、廊下を歩いていた女官を呼び止めて何かを頼んだ。満寵殿は戻ってくると上着をかけてくれて、自身の手で私の手を包んでくれた。満寵殿の手は温かくて、じんわりとほぐれていく。

「こんな時間になるなら後日にしてもよかったんだよ」
「訪ねた時はすぐに戻ると思うって言われたんです。それが待てども来なくて時だけが過ぎていきました」
「将軍はどこに行っていたんだい?」
「多分女の所です。白粉の匂いがしたので」
「こんな時に。困ったお方だ…」

 満寵殿は小さくため息をついた。その時に先程満寵殿に呼び止められた女官が火鉢を持ってきた。反射的に手を引こうとしたけど、満寵殿は手を離してくれなくて、手を包まれた状態のまま横で火鉢の準備がされていく。何となく気まずくて女官の方を見ないよう少しだけ顔を反らした。
 慣れた手付きで手早く準備を終え、一礼して下がっていく女官にお礼を言う。先程まで使っていた物なのか、既に温かくなっていた。

「満寵殿の手が冷たくなってしまいますよ」
「私はさっきまでこれで温まっていたから大丈夫」
「片付けたばかりだったんですね。引き止めてしまってすみません」
「いや、むしろ私のいる間に帰ってこれてよかったよ」
「あれ以上遅くなるようだったら私も諦めて明日にしてました」

 ようやく感覚が戻ってきた指先は、ちゃんと血が通いはじめたせいか、今度は痒くなってきた。満寵殿の手の中でもぞもぞと動かしたら、今度はすんなり離してくれた。膝の上で手を擦りながら痒みに耐える。本当は思い切り掻きむしりたいけど、たださえ乾燥でぼろぼろになった手をこれ以上傷だらけにはしたくなかった。

「私は部屋に戻るけど、ななし殿はまだ温まっていくかい?」
「そうですね、もう少しだけここにいます」
「火の扱いには注意するように。この前もどこかでぼや騒ぎがあったからね」
「気を付けます」

 欠伸を噛み締めながらおやすみと言った満寵殿に軽く頭を下げた。満寵殿が執務室を出ていくのを確認してから、奥にある寝台から掛け布団を引っ張り出してきた。折角温まってきたのに、冷え切った部屋に戻るのが嫌だったから今日はここで寝よう。まだ燃えている炭を火消し用の壺に入れて火種がなくなるのを確認してから、布団に包まった。満寵殿に見つかったらまたこんな所で寝て、とかお小言を言われてしまいそうだ。いつもは私が身なりのことでお小言を言う側なのに。お小言を言われない為にも早く寝て満寵殿が来る前に起きないと。


20200305

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