通院して大変な事になる話


 その月によって違うけど、私は月のものが重い方だと思う。始まってすぐは当ててる布では追いつかないくらいの血が出るし、時々だけど動けなくなるくらいお腹も痛む。多量出血はおさまっても、十日程は血が止まらない。幼馴染に相談した時はとにかく身体を冷やすなと言われたから月のものが来たときは腹周りに布を巻いていたけど、それでもあまり良くならなかったから甄姫様と蔡文姫様に相談したら、その手に詳しいという医者を紹介してくれた。医者にも口酸っぱく身体を冷やさないようにと言われた後、いくつか薬を用意してくれた。痛みの酷い時に飲むようにと出されたその薬は割と効果があったから、経過を報告する為にも何度か医者の元へと足を運んでいたけど、まさかそれが後々に事件に繋がるなんて思ってもいなかった。



 夕方頃に用があって李典殿を訪れた。用自体はすぐに終わるものだったのに、李典殿はいつも以上に丁寧にもてなしてくれた。すぐに帰るからと言ってもここに座ってゆっくりして行けだの茶を用意するから待っていろだの言われて半ば無理矢理椅子に座らされた。今後の調練の事で確認したいことがあっただけなのに、この対応は一体どうしたことだろうか。裏があるんじゃないかと思って出されたお茶にも手を付けないでいたら、楽進殿と曹休殿がやってきた。

「李典殿、準備は出来ましたか?今日はいつもと違う店みたいなので迎えに参りましたよ」
「おー、ちょっと待っててくれ。今ななしが来てるんだ」
「ななし殿!お身体大丈夫ですか?」
「何の話ですか?」
「いえ…最近調子悪そうにしていたので」
「ああ…。もう大丈夫ですよ」

 医者から貰った薬が効くまでの間痛みに耐えるのにたまに端の方でしゃがんだりしていたから、その事を言っているのだろうか。理由は言っていなかったから、濁しつつももう良くなったことを話す。

「今日はいつもと違うお店に行くんですか?」
「ああ。たまには新しい店を開拓しようと思ってな。珍しく曹休殿が気になる店を見つけたらしくてそこに行くことになったよ」
「いいですね」

 たまに鈍痛がする下腹をさすりながら、これくらいの痛みだったらもう飲みに行っても大丈夫かなと考える。暫く酒を控えていたから、話を聞いていたら飲みたくなってきた。

「込み入った話をしないのであれば、私も行ってもいいですか?」

 いつもだったら一つ返事で承諾してくれるし、何ならこちらから聞かずとも無理矢理誘ってくる人達だから今回も良いと言ってくれると思ったのに、予想外にも三人が困惑し始めた。

「え…でもお前身体大丈夫なのか?」
「そうですよ、暫くの間お酒は控えた方がいいと思いますよ」
「今はあまり無理しない方がいいぞ。飲めるようになったら存分に付き合うから」

 最初は男だけの話がしたいのかと思ったけど、あまりにも全員で私の体調を心配するから違和感を感じた。今までは月のもののせいでお腹が痛くても体調を気にされたことなどなかったし、むしろ関係なく飲みに連れ出されていたのに。

「もう大丈夫です。暫く飲んでいなかったのでむしろ飲みたいですよ」
「いや、そういう時は飲まない方がいいって聞いたことあるからやめとけ」

 今までそういう時に飲みに連れ回したのは誰だと言いたくなったけど、既の所で飲み込む。月のものであるということは察してくれる人はいてもわざわざ異性に言うものではない。それでも心配されるということは、自分で思っているよりも余程体調が悪そうに見えるのだろう。そういう時は大人しく休むに限るから、さっさと部屋に戻って横になろう。

「つわりで暫く寝込む人もいるらしいからな」
「ん?」
「え?」

 李典殿は今何と言っただろうか。聞き間違いじゃなければつわりと聞こえたような気がするけど。誰か別の人の事でも言っているのかと思ったけど、この場に女は私しかいないし、今までの会話の流れで誰かの奥方が懐妊したという話も出ていない。

「誰かつわりですって?」

 問い詰めると三人はおろおろし始めた。何となく楽進殿と曹休殿が目で李典殿を責めているように見えたから元凶はこれかと思って李典殿に詰め寄ったらあからさまに目を反らされた。

「李典殿、どういうことですか」
「いやあ…ほら、ここの所ななしが凄い体調悪そうにしていたからさ」
「はい。で?」
「見ちゃったんだよね、俺…。最近ななしがそういうのに詳しい医者の所によく通ってるのを」
「それだけで懐妊したと?」
「腹の下の辺り擦りながら医者の所に行ったら誰だってそう思うだろ!」
「思いませんよ!思わないで下さい!」
「しかも前の山賊退治から帰ってきた時に満寵殿と何かあったなってピンときたんだよ」
「な、なんでそう思うんですか!そんな下らない所でピンとこないで下さい!」
「下らなくはないだろ!俺の勘結構当たるんだからな!」

 思わず私も一瞬焦ってしまった。山賊退治の時、何もなかったと言えば嘘になる。だけどそういう事が起こったわけではないから李典殿の考えている事は完全なる勘違いだ。

「ただの月のものです!いつもいつもお腹痛かったり血が多くて医者に相談してたので妊娠ではありません!満寵殿ともそういった事は何もないですから!」

 我慢できずに叫んでしまったけど、はっとする。今とても恥ずかしい事を口にしているのではないかと。言い終わってから顔が熱くなってきた。自分の月のもの事情を異性に向かって大声で叫ぶ女なんかいるわけがない。その証拠に三人もどう答えればいいのかわからないと困惑の表情だ。気まずくなってきたから一言謝って帰ろうとしたら、楽進殿がぼそっと呟いた。

「そういった事は、ってことは、何も無かったわけじゃなさそうですね…」
「だよな、だよな楽進!よく気付いた!」
「それに先程一瞬ですが言葉が詰まっていましたので」

 否定するために無意識に出た言葉だったのに、こうして裏目に出るとは思わなかった。しかもそういった事にあまり興味なさそうな楽進殿に気付かれるなんて。なんか前に郭嘉殿と飲んでいた時にも似たような事があった気がする。私は満寵殿から日々何を学んできたのだろう。満寵殿の世話をする技術しか身についてないのでは。これ以上面倒な事にならないようにさっさと退散しようとしたら、それよりも早く李典殿にがしっと肩を組まれた。

「詳しい事、もちろん話してくれるよな?」
「話すことは何もありません…!」
「妊娠したわけじゃないなら安心して飲ませられるからな、覚悟しておけよ」
「覚悟できないから帰らせて下さい…!」

 私の叫びも虚しく李典殿に引っ張られてしまった。今日中に終わらせたい書簡があったし、満寵殿にもすぐ戻るって言っちゃったのに。
 結局その日は山賊退治の時に何があったのか話してもそれだけじゃないはずだって疑いをかけられて問い詰められ、開放されたのはかなり遅い時間になってしまった。


20200403

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