曹休が話を聞いてくれる話
ようやく時間が出来たから昼ごはんを食べに食堂に向かった。お昼時からかなりずれたからそこまで混んではいないだろうと思ったのに意外と人が多かった。だけど一人分の席を確保するくらいはどうってことない。売り子から貰った肉まんを抱えて隅っこの目立たない所に座った。ぼーっと何も考えずに肉まんにかぶり付いていたら、目の前に誰かがやってきた。口元の肉まんはそのままに視線だけ上に上げたら、曹休殿と目が合った。急いで肉まんを飲み込んで挨拶をしようしたけど、思い切り大きな一口を入れたばかりだったからなかなか飲み込めずに言葉も発することができず、頭を下げるしかできなかった。様子は伝わったのか、慌てなくていいと軽く手で制して自分も座った。
「随分と大きな一口だな」
「お腹空いてたんです」
「今日は朝から忙しかったからな」
調練の後に軍議、続けて別の軍議、ようやく部屋に戻れたと思ったら兵からまた呼び出されたりと落ち着く間がなかった。曹休殿も相当忙しかったのか、持ってきた昼ごはんをかき込むように食べ始めた。私も食事を再開して、二人で無言のまま食べ続けてあっという間に平らげてしまった。
「ななし殿はこの後も忙しい?」
「やる事はありますけど、もうちょっとゆっくりしていきます」
「じゃあ少し話をしよう」
「いいですよ」
曹休殿から話したいことがあるなんて珍しい。よくよく考えたら調練を抜いて曹休殿と二人で話した事はあまりなかった。いつも李典殿や楽進殿がいる時に一緒に話すか、たまに甄姫様と話している時に曹丕殿と一緒にやってきて挨拶をする位だ。悩みでもあるのだろうか。それなら私なんかが聞いて解決できるかわからないし、せめて愚痴だけでも聞いて楽になってもらえればと思って背筋を伸ばして曹休殿の言葉を待った。
「ななし殿は満寵殿を好いているのか?」
「は…!?急に何ですか!?」
予想外の言葉に大きな声を出してしまい、注目を浴びてしまった。周りに頭を下げて侘びた後に、声を抑えて曹休殿に問い詰めた。
「何か悩みでもあるのかと思えばそんなこと聞きたかったんですか?」
「李典殿達はいつも満寵殿とななし殿の話で盛り上がっているけど、ちゃんとななし殿の気持ちを聞いたことがなかったからな」
「いやそんな理由…」
「李典殿に聞いてもあいつの顔を見てたらわかるとしか言われなくて、俺はそういうのに疎いからちゃんと聞こうと思ったんだ」
曹休殿のあまりに馬鹿正直な意見に返す言葉が出てこなかった。言いたい事はわからなくもないけど、内容が内容なだけに率直に聞いていいことと悪いことがある。だけど曹休殿だから仕方がないかと思ってしまうのはこの人の人柄故だろう。
「で、どうなんだ?本当に好きなのか?」
「いや、あのですね………答えたくないです」
どう答えるのが一番いいのかわからず少し悩んで出てきた言葉がこれだった。もっといい言葉があればよかったけど、満寵殿に失礼のない答え方をするにはこれしか思い浮かばなかった。だけど曹休殿は、ああ、と何か納得したような顔をした。
「いつも否定しているのに、今日は否定しないんだな」
「……」
いつも李典殿が言うのは満寵殿と何かあるんだろうという事ばかりで、何もないから否定できていたのだ。でも今の曹休殿の聞き方はずるい。自分の中で上手く抑えられているつもりだった気持ちがちょっとだけ抑えられなくなってしまった。
「今の顔なら李典殿の言っていた事もわかるな」
「軽蔑、しますか?」
副官が上官にそれ以上の気持ちを抱いている事を。私が女だからという理由だけで私の事を良く思っていない人がいるのに、その女としての感情を上官に持ってしまった事を。そこまでを言葉にするのが怖かったから、これ以上は何も言えなかった。
「何で軽蔑するんだ?」
「え?だって上官と副官という立場ですし、満寵殿は少なくとも副将としての私に期待して側に置いてくれていると思うので…」
「上官と副官だからと言って特別な感情を持ったらだめという事はないだろう」
曹休殿がそんな事を言うなんて意外だった。軽く接しているけど曹家の人だから身分とか立場とかはっきりとさせる人だと思っていたから。
「もっと自分の気持ちに素直になったらどうだ?俺達は素直なのが取り柄だろう」
「俺達って、曹休殿程じゃないですよ!一緒にしないで下さい!」
「似たようなものだと思うぞ。今だって顔真っ赤になっているしな」
慌てて手で隠したけど、ものすごく熱かった。言われるまで気づかなかった。恥ずかしくなって顔を伏せたら、ぽんぽんと頭に手が乗った。
20200605