満寵に告白された次の日の話


 昨日満寵殿とああいう事があったからあまり寝付けなかった。触れられた部分がずっと熱くて、どきどきが止まらなくて、でも自分の部屋に帰って寝台に入ると目が覚めた時に夢だったんじゃないかという恐怖に襲われて、色んな感情が混ざり合った結果の寝不足だ。顔を洗ってから鏡で顔を見てみると、隈が酷い気がする。こんな顔で会って幻滅されないだろうか。化粧で誤魔化すかと思ったけど執務のある日に化粧をしたことがないから色気づいて、なんて引かれてしまうかもしれない。それに午後には調練があるから、化粧をした所で汗で落ちてしまい、余計に酷い状態になってしまう。鏡としばらく睨み合った後、この程度の隈なら寝不足の時にいつもあったじゃないかと冷静になった。隈以上に酷い状態を晒したこともあったし、今更色気づいたところで意味ないなと思い、いつも通り保湿をして髪をまとめて部屋を出た。

 執務室に着いて、なかなか一歩が踏み出せないでいた。満寵殿は早くいる時もあれば随分経ってから来ることもある。決まった時間にはいないため、中に入ってみないといるのかどうかわからないのだ。扉に手を掛けては下ろして、を何度か繰り返していたら、女官に大丈夫ですかと声をかけられた。いつもこんなことしないから、何やってんだこいつって思われたのかもしれない。意を決して扉に手を掛けた時、突然後ろから名前を呼ばれた。

「おはようななし殿。入らないのかい?」
「わああ!」
「びっくりした。そんなに驚くかな」

 中にいるのかいないのか悩んでいたところ、悩みの種が後ろから現れるなんて思っていなかったから大きな声が出てしまった。満寵殿は一瞬驚いた顔を見せたけどすぐに笑顔になり、何事もなかったように扉を開けて中に入った。私も慌てて後に続く。
 満寵殿はいつも通り仕事をこなしているし、いつも通り他愛のない話題も振ってくる。その度に私は心臓が出てきそうな程どきどきするけど、仕事に集中していないと思われないように何とか冷静を保つようにした。それなのに、次の瞬間満寵殿が私の心臓を抉るような発言をした。

「ななし殿、緊張しすぎだよ」
「!?」
「目も合わないし、挙動不審だし。そんな状態だとすぐに周りに悟られてしまうよ」
「いや、あの…」

 完全にばれている。いや、人のことをよく見ている満寵殿が気付かないわけないのはわかっていたけど、指摘される程だと思っていなかった。だけど満寵殿の言う通りで、返す言葉が見つからない。そんな私に満寵殿は追い打ちをかけてきた。

「私は皆に知られても全然構わないけどね。それにななし殿のこんな反応を見れるのは今だけだろうから、充分に楽しませてもらっているよ」
「楽し…!?」

 私は緊張でどうすればいいのかわからないでいるのに、満寵殿はそんな私を見て楽しんでいるというのか。満寵殿は相変わらずいつもの笑みを浮かべているけど、昨日あんなことがあったのに平然としていられるのが私には理解できない。軍師殿は恋愛関係までお手の物だというのか。

「からかうのはやめてください。ただでさえ緊張しているのに…」
「それくらい私のことを意識してくれているということだろう?私は嬉しいよ」
「満寵殿…」
「ごめんごめん。ななし殿の反応が面白くてつい」

 いつもだったら睨みをきかせるのに、顔を見れないせいで睨むことすらできなかった。だからせめてもの抵抗に背中を向けた。集中できていないとばれているなら無理に隠す必要はない。視界から満寵殿をなくしてしまえば幾分か楽になる。見えていないけど、絶対に満寵殿は笑っているに違いない。背中を向けたまま筆を走らせていたら満寵殿も諦めたのか話しかけてこなくなった。そのまま集中しようとした時、背後に気配を感じると共にぽんと肩に触れられた。とんでもない声が出てしまい、机に手をついて壁の所まで下がる。

「ははっ、やっぱり面白い反応を見せてくれるね。変な声だったよ」
「それは急に触れてくるから…!」
「もう急に触れてもいい仲になっただろう」
「…!」
「これ、追加の書簡よろしくね」
「は、はい…」

 用はこれだけらしく、すぐに自分の所に戻っていった。追加の仕事があるなら普通に渡してほしい。何なら近づかずに投げてくれたってかまわなかったのに。今日でこれだから、明日以降はどうなってしまうのか。満寵殿が飽きるのが先か、私が慣れるのが先か。慣れる気は全くしないし、こうなった満寵殿もすぐに飽きないだろう。私がこの状況に諦めるしかない。大きなため息をついて受け取った書簡を広げた。


20200822

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