満寵との仲を祝福される話


 調練を終え、身だしなみを整えてから執務室に向かおうとしたら、思い切り背中を叩かれた。夏侯淵殿かと思い振り返ったら、李典殿だった。調練の関係で伝えたいことがあるなら普通に声かけてくると思うし、何よりも李典殿のにやけた顔で何となく嫌な予感がして、後ずさりをする。

「なあななし、俺に言うことあるよな?」
「ありません」
「いいや、ある!俺の予感は外れない!」
「この後すぐに執務に戻らなければいけないので…」
「ななしが答えてくれれば早く帰してやるよ」
「全然帰す気なさそうな顔してますけど…!」


 隙を見て走り出そうとしたら、僅差で李典殿にがしっと肩を組まれてしまった。目を合わせずに李典殿の腕を剥がそうと静かな攻防が始まった。最初は静かに拮抗状態だったけど、腕から抜けようとする私とそうさせまいとする李典殿の動きでくるくると回り始めた。

「二人とも何やってるんだ。新たな取っ組み合いか?」
「何だか楽しそうですね」
「楽進殿、これが楽しそうに見えますか…!?」

 こっちは必死に逃げようとしているのに、曹休殿と楽進殿が呑気にやってきた。二人から見たら私達は楽しそうに戯れているように見えるみたいだ。李典殿が楽しそうだからそう見えたのかもしれない。とにかくこの二人が来たところで助けを求められるわけもなく、より不利な状況になってしまった。

「二人ともいい所に。今からななしが俺達に言いたいことがあるらしいんだ」
「何を勝手なことを…!」
「ななし殿から報告ですか。どうされたのですか?」

 李典殿が本気で押さえにかかってきて、全く動けなくなってしまった。こうなってしまえば私が話すまで李典殿は解放してくれないだろう。だけどいざ言葉にしようと思うとどう言えばいいのかわからず、しばらく無言の時間が続いた。

「ななし、言わないとずっとこのままだぜ?」
「いや、あの、何と言いましょうか…良い言葉が思い浮かばず…」
「あったことをそのまま話せばいいだろ」
「そう言われましても…」

 あったことを話すのは確かに簡単だけど、恥ずかしさの方が勝ってしまう。この人達に「満寵殿に好きと言われました」とはっきり言える訳がない。更にその時のことを思い出してしまい、余計に恥ずかしくなってきた。また黙り込んでしまった私に、李典殿が催促を始めた。

「ななし?」
「あの、満寵殿に…はい」
「それじゃ全然わからないぞ」
「察して下さい…!」

 顔の赤い状態で満寵殿の名前を出しただけでもうわかるだろうと言いたかったけど、この人達…特に李典殿は何としても言わせたいらしい。羞恥心を捨てるしか選択肢がなかった。

「告白されました…」

 勇気を振り絞って出したその一言は、自分で思っていたよりも小さな声になってしまった。李典殿に聞こえるかどうかくらいの大きさで、曹休殿と楽進殿には絶対に届いていないだろう。李典殿にもう一度大きな声で言えって言われるかもしれない。こんな恥ずかしいこともう一度、しかも大きな声で言うなんて絶対にできるわけがない。そう思っていたら、李典殿の腕に力が入り、思いっきり頭を撫でられた。

「ななしが満寵殿に告白されたってよ!良かったな!」
「ちょ、声が大きい…!」

 抵抗しようにも体は押さえつけられたままで、やめて下さいと声を上げることしかできなかった。李典殿の大きな伝言のおかげで曹休殿と楽進殿にも伝わったらしく、良かったなと言いながら頭に触ってきた。三人で撫で回すものだから髪がぐちゃぐちゃだ。別の意味で叫びたくなってきた。

「なあななし」
「何ですか?」
「本当に良かったな。ちゃんと幸せになれよ」

 一通り撫で回された後、李典殿が耳元で私に聞こえる位の大きさで呟いた。視界の端の方に見えた李典殿の表情はいつもからかってくる時の顔と違って、とても穏やかった。本当に満寵殿と親密になれたんだと改めて実感して、こうして心から祝ってくれる人に囲まれて、幸せだと感じるのと同時に何だか照れ臭くなり、目は合わせられなかったけど、しっかりと頷いた。

 ようやく解放された私はぐちゃぐちゃになった髪を直そうと紐を解いた。手櫛で直している最中、大きな声でこちらに向かってくる人と目が合ってしまった。その時に背後から不穏な気配を感じ取ると同時に李典殿と曹休殿に腕をがっしりと組まれてしまった。驚いて叫び声を上げるも虚しく、李典殿が大きな声でその人物の名前を呼んでしまった。

「夏侯淵殿〜!ななしから報告があるそうですよ〜!」
「お、どうした?何か良い事でもあったのか?」
「めちゃくちゃ良い事ですからとにかく聞いて下さいよ!」

 笑顔で近づいてくる夏侯淵殿、両側で私の腕を組んで離さない李典殿と曹休殿、それを苦笑しながら見ている楽進殿という再び逃げられない状況に置かれ、先程の言葉をもう一度言わなければならないのかと思うと、気が遠くなる思いだった。


20201116

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