荀攸


 荀攸様は何か考え事をしているらしく、一人でお酒を飲みながら竹簡に筆を走らせていた。机の上の酒器が溜まってきたから、失礼しますと言って部屋に入り、酒器と空の器を集めた。お盆に乗せて立ち上がろうとした時、荀攸様にぐっと手を引かれた。急に熱い手が触れたため、驚いて体勢を崩し、荀攸様の膝の上に乗ってしまった。何という無礼を働いてしまったのかと血の気が引いて、急いで立ち上がって申し訳ございませんと叫ぶ。だけど当の本人も驚いた様子で、困惑気味に自分の手を見ていた。きっと酔いが回ったのだろう。お邪魔になる前に早く出た方が良い。体勢を崩した時にお盆の上の器がいくつか倒れてしまったから、それを直してから立ち上がる。今度は手を引かれなかったけど、名前を呼ばれた。

「先程は驚かせてしまいすみませんでした…」
「いえ、こちらこそ大変失礼致しました」
「あの、貴方が良ければ…酒を共にどうですか?」
「え?」

 荀攸様はそれを言いたくて手を掴んだのだろうか。私なんかがそんなことをしても大丈夫なのだろうか。疑問は増えるばかりだけど、普段表情の変わらない荀攸様が少しだけ不安そうな目をしていたから、それが何だか可愛く思えてしまい、はいと頷いた。


20201108

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