荀ケ
朝の仕込みの当番になると、日が昇る前から炊事場に行かないといけない。そうすると真っ暗な廊下を蠟燭で照らしながら歩くのだけど、廊下を曲がると一つだけ明るい部屋があった。位置的に荀ケ様の執務室だろう。いけないと思いつつも明かりの漏れている隙間から覗くと、荀ケ様が書簡に筆を走らせていた。またこんな時間まで起きていたのだろうか。驚かせないように声をかけてから部屋に入った。荀ケ様は私が現れたことに驚いていたけど、名前を呼んで微笑んでくれた。
「貴方がここを通るということは、もう朝方なのですね」
「もう朝になりますよ。荀ケ様はずっと執務を?」
「ええ、やらなければいけないことがたくさんありますから」
そう言ってまた筆を取ろうとしたから、止めるようにその手に触れた。両手で押さえ、筆に触れさせないようにする。
「荀ケ様、休んで下さい。お体に障ります」
「貴方は優しいですね」
私の手をそっと解くと、私の頬にすっと触れた。ずっと書き物をしていたせいか、ひんやりとしている。その冷たさが気持ち良くて、目を閉じる。そしてその手にもう一度自分の手を重ね、指を絡めた。
20201108