関平


 関平様が珍しく部屋に籠もって仕事をしていたから、息抜きになればと思い頃合いを見てお茶を用意した。身体を動かしている方が性に合っていると仰っているお方だから、きっと今頃疲れているだろう。声をかけて中に入ったら、案の定ぼーっと窓を見つめていた。思っていた通りの状態に緩みそうな口元を袖で隠して、邪魔にならない所にお茶を置いた。それでようやく私が入ってきたことに気付いたらしく、うわっと声を上げていた。

「驚かせてすみません。お茶をお持ちしました」
「ああ、すまないな」

 関平様はお茶を一口だけ飲むと、また意識がどこかて飛んでいた。眠たそうな様子ではないから、何か考え事でもしていたのかもしれない。一人分の間を空けて、関平様の横に腰を下ろした。

「考え事でもしていたのですか?」
「え、わかるのか?」
「わかりますよ」

 関平様は驚いた様子だったけど、執務に集中していないのは一目瞭然だ。それに関平様は顔に出やすいから、気付かれていないと思っている方がおかしな話である。

「身体を動かしていないと、父上の事を考えててしまうんだ」
「関羽様ですか?」
「ああ。拙者は父上に追いつけるのだろうかと」

 軍神関羽の子、それだけでも凄いことなのに、当の本人は誇りに思うと同時にそれ以上の重圧を感じている。時としてその重圧に押し潰されそうになる位に。どのような言葉をかければ関平様に届くのかと考えたけど、良い言葉が思い浮かばなかったから、関平様の手にそっと触れた。関平様の手はちょっとだけ跳ねたけど、引かれはしなかった。もう片方の手も重ねて、両手で関平様の手を包んだ。

「関平様は関平様のままでいいのですよ」
「拙者のままで…?」
「はい。お父上の関羽様を目指すのはよい事だと思いますが、関平様にしかできない事だってありますから」
「そんな事あるのだろうか…」
「だって私は関平様がいらっしゃるからこんなに幸せに暮らせているのですよ。これは関羽様にはできない事です」

 そう言って微笑んだら、関平様は顔を真っ赤にし、ふいっと反らしてしまった。その様子がかわいくて、笑いそうになるのを必死に耐える。だけど耐えきれなかった震えが手に伝わってしまったのか、触れていた手を引かれた。からかわれていると感じたのかもしれない。笑ってしまったのは失敗だったなと反省していたら、急に関平様が振り返り、私の耳の辺りに手を伸ばした。少しだけ身構えたけど、そのまま髪に指を絡め、優しく撫でてきた。視線を上げたら、関平様の顔はまだ真っ赤なままだったけど、凄く優しい顔で微笑んでいた。髪に触れる指と、こめかみを撫でる親指がとても優しくてとても心地よくて、それを存分に感じたくて目を閉じた。


20201224

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