Sarvant:assassin
「梁山泊百八傑が一人。サーヴァント、クラスアサシン。燕青だ!」
宜しくな、と男は人懐こい笑みを浮かべ言った。
そのセカイは、SE.RA.PHと云った。
ムーンセルが聖杯戦争を進めるために構築した、仮想空間。ここは、その裏側だという。本来ならば知性を持つ生命は決して入ってはいけない、絶対禁断領域。旧校舎という、不確かな安全地帯。
幾ばくかのマスターとNPCが、そんなセカイに取り残された。
そんな世界で、異端なのが2つ。私と、目の前でにこにこと楽しげなサーヴァント、アサシン。名を燕青と、彼は云った。
「おっそいよぉ、マスター。どれだけ待たせるつもりなんだ?」
(誰…………!?)
新宿に見付かったという特異点へレイシフトするはずだった。気付けばこの世界、旧校舎の保健室で横たわっていた。桜と名乗る少女は他の皆と同様記憶が無いと言ったが、そうじゃない。私はここに居るべき存在ではない。
私と契約したサーヴァントが教室で待っているからと言うからマシュか――いや、今回は着いてきてくれたエミヤか巌窟王かはたまたカルナか――少なくとも自分を知っている相手と状況を確認し合いたいという一心で向かえば、見知らぬサーヴァントが自分を「マスター」と呼び待っていた。
「ええと……」
まさか、私と契約しているサーヴァントが彼だと言うのだろうか。カルデアにはこれまで特異点で出会った数々のサーヴァントの縁があるものの、彼の事は見たことも聞いたことも無い。いや、梁山泊という名前ならうっすら覚えがある。水滸伝に出て来た気がする、という程度だが。
そして桜も、情報に自信が無いと言っていた。登録されたはずの私のサーヴァントが、本当にアサシンだったのか。月の裏側に来た際に、情報が一部削がれてしまったのだという。
「記憶が無いかもしれねえって事は聞いてたが、そこまで警戒されるとさすがの俺も傷付くなぁ。」
やはり人懐こい笑顔で彼は言う。暗殺者というクラスというだけで多少警戒が強まるのは仕方ないだろう。だが、事実目の前の彼には敵意は無いし、私にも分かるように隙を作りそれを証明している。
(信頼していいものだろうか……)
ちらと左手を見れば、一画だけ残された令呪がある。これまで右手にあったはずのそれが、左手に。思えば衣装もカルデアの戦闘服から学生時代を思い出させるセーラー服となっている。こんなにスカートを短くして履いた覚えはないが。
「うーん……」
「納得したか、マスター?」
令呪が示すのは、彼が自分のサーヴァントである事に間違いはない、という事。レイシフトの失敗か不具合か、気付けばこんな所に来てしまったし、そんな先でサーヴァントに助けられた事も初めての事ではない。今はまず、状況を確認しなくては。
*
「頭がパンクしそう……」
「大丈夫かぁ?マスター?」
生徒会室で話を聞き、矢継ぎ早に展開する状況に流されるまま動いた1日だった。用意されたマイルームにベッドを確認するなり、雪崩のようにダイブする。ひんやりとしたシーツが心地好い。
「よっ、と。」
「ちょっと、座るならそっち!」
「手厳しいねぇ。」
呵々、と燕青は笑うと、大人しく側の椅子へと座り直す。その一連の動作を眺めていると、彼も休息モードのつもりなのか籠手を外している事に気付く。
「なあに、マスター。じっと見詰めて。そんなに珍しい、コレ?」
そう言って、燕青が指で自身の体に彫られた華をなぞる。初めて会った時は「誰?」という疑問に埋もれ気にする余裕も無かったが、今見るとその上半身はほぼ晒け出され、色鮮やかな刺青によって染め上げられている。
「今ならおさわり良いよぉ。」
「おさわり、って……」
ベッド横に立ち、腕を広げ待機する男を見上げれば、互いの視線が絡み合う。その目が訴えているように感じ、渋々腕を伸ばす。鍛え上げられた腹筋を覆うように彩られた華に、指を這わす。艶のある長い髪を一つに纏め、端正な顔立ちに比べその身体は男のそれである。
「あははは、くすぐったいよぉ!」
「ちょ、触れって言ったのあんたじゃん!」
「あたっ!触れとは言ってないよぉ!」
ぺしりとお腹を小さく叩き、背を向けて頭から布団を被る。今絶対顔赤い。自分でも分かる。ついつい彼に乗せられてしまった気がする。恥ずかしい。
もう寝てしまおう。深呼吸しながらそう思うと、疲れからか一気に睡魔が押し寄せる。やるべき事、考えるべき事は沢山あるが、抱え込んでも仕方がない。今はこの波に乗るとしよう。
「おやすみぃ、マスター。」
遠くなる意識の淵で、そんな声を聞いた。
***
燕青祈願も兼ねてやりたかったけど、口調が掴みきれず断念。急激に仲良くなりすぎな気がしてるが燕青が可愛いから仕方ないよね。
mae | tsugi