Basement-3
「うっひゃあ、こりゃ敵さんもいよいよ本領発揮ってトコか?迷宮の名は伊達じゃないってね。」
迷宮、地下三階に入るなりロビンが感嘆の声をあげる。入り組んだ造りの迷路は、今回も厄介そうだ。正面にはシールドが一つ見えている。慎重にその前まで進むと、凛の姿が見えた。
すぐに転移してしまったが、何やらただならぬ雰囲気を纏っている。疲れが溜まっているのだろうか。
「とりあえず追ってみますか。」
「そうだね。なんか気になるし……」
迷路を奥へと進み、夕日に向かって続く一本道をひたすらに駆ける。今までとの構造の違いから、警戒心が増す。次第に見えてきたのは、凛の彫像だろうか、彼女の意匠の施された巨大な壁だ。その前には、凛本人とアーチャーの姿がある。
「いったい、どういうコトなのじゃ、リン。わしは200と言ったはずじゃが?」
「わ、悪かったわね。でも、今はこれが精一杯よ。」
「言い訳は無用じゃ!貴様が言うたのであろう。わしが特別に言うコトを聞いてやったというのに、なんじゃこの体たらくは!」
バシンと、アーチャーの持つ鞭が凛に叩き付けられる。騎馬を指揮するためのものだろう。アーチャーは、苛立ちをを隠そうともせず何度も鞭を振るう。
「ごめ、ごめんなさいアーチャー!次はちゃんと用意するから……!」
「当たり前の事を言うでないぞ、リン!」
なんだ、あれは。事情は分からないが、アーチャーは凛を攻撃しており、マスターである凛は止めもしない。頭を下げて、アーチャーの鞭を甘んじて受けているその姿は、進んで罰を受ける奴隷のようだ。
「ちょ、ちょちょちょ、オタクらストップ!いったいなんなんですかねぇ!?」
慌てたように止めに入るロビンに、はっと我に返る。そうだ、見ている場合ではない。あまりの光景にフリーズしてしまったが、凛もこちらが追い付いた事に気付いて無かったようだ。驚きの表情を浮かべている。
「なんじゃ、貴様ら。他人の事情に口を挟むなど、お節介にもほどがあろう。心配せずとも、わしとリンはこれが正しい関係なのじゃ。」
凛は自分の望みを叶えてくれる。だから自分も凛の望みを叶える。そう言って、アーチャーがまた凛に鞭を振るう。しかし、やはり凛はまったく動かない。止める事もしない。
ドクン、と、心臓が脈打つ。一瞬、確かに凛の胸の隙間が見えた。では、あの状態が凛の心の淀みだというのか!?
「いやぁ、まさかとは思ったが、やっぱり反応するとは……そういう趣味と来たか。ま、アーチャーは俺が何とかするんで、そっちは頼みますよ。」
「わかった。」
ロビンの声に頷いて、同時に地面を蹴る。凛の最後のSG、それはきっと"従属のヒロイン願望"。普段の自分とは真逆の性質。
「や、やだ、うそ、見ないで……!こんなの私じゃない……私じゃないんだってば!」
開かれた隙間に手を伸ばす。SGを摘出。背後で、凛の乾いた笑い声が聞こえる。
「あはは……見られちゃった、私の秘密……。そう、私は誰かに支配されたかったの。いつも気を張って、胸を張って、格好良く生きるなんて疲れるだけ。心の底ではいつも楽になりたかった。」
管理される立場、自由のない毎日、誰かに命令される自分にずっと憧れていた。凛が、消えかけた体でそう吐き出す。
「ふふ、あはは……ああ、やっと楽になれた。ありがとう、立夏。」
「凛……」
ふ、と凛が笑う。何かが吹っ切れたような、清々しささえ感じられる笑顔だ。
「マスター!」
「わっ……!グリーン!?」
ぐい、とロビンに腕を引かれ、その背後に立たされる。一度俯いた凛は、纏う空気を一変させる。
「お礼に、殺してあげる。もう手加減も同情もなし。私の心を壊せるものなら壊してみなさい。その時こそ、この借りを千倍にして叩きつけてやるからね、コンチクショー!」
凛の体が、弾けるように霧散する。
「ほう、リンは戻ったようじゃの。貴様らなかなかやるではないか。まあ、よい。わしも今日は興醒めじゃ。じゃあの。出口のないこの迷宮でみじめな最期を迎えるがよいわ!」
「待っ……!」
そう言い残し、アーチャーはレリーフの中へ吸い込まれるように消えていった。慌てて追うも、そこにはただ壁があるだけである。
『ダメです。反応、消えました。その壁の中に特殊な空間がある事は計測できますが、入る手段がありません。また、凛さんの分身が崩壊した際、器を構成していた霊子はその壁に流れていきました。』
『つまり、このレリーフの中にミス遠坂の本体がいる可能性が高い、という事ですね。』
桜の言葉に、レオが続く。そこまでは私も理解出来るが、だからといってどうすれば良いのか見当もつかない。
『リツカさん、一度戻ってきてください。こちらには心の専門家がいます。殺生院キアラに話を聞きにいきましょう。』
「あっ、そっか。キアラさん……!」
そうと決まれば行動あるのみ。設置された端末から旧校舎へと戻り、キアラの姿を探した。
mae | tsugi