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 愚痴を聞いたあと両親はまたしばらく帰ってこなくなった。


 朝からなんとなく体がだるくて、昨日晩寒かったからかと思っていたら授業の内容も、友人の話も全然入ってこない。


「せんせー!スイくんの調子が悪いみたいです」


 クラスのまとめ役の女の子が声を上げてくれる。大丈夫だから、なんともないからという俺を先生は保健室に連れて行く。


 目の前ぼんやりして椅子に座らされるのも体温計を入れられるのもされるがままだ。


 横になりたいけど、それもしんどくて壁にもたれる。ピピピとなる体温計を取り出すのも億劫だ


「あら!38.5度!しんどいわね。横になりましょう」


 ベッドに運ばれて布団をかけられる。暑いような寒いような。思考力を奪われて何も考えれない。こんなに体がいうことを聞かないのは初めてだった。


「お父さんとお母さんは?」


「しごとで、とおくにいます」


「じゃあお迎えは難しいかな。とりあえず連絡してくるから」


 うんうんと頷く。多分連絡はつかないし、ついても来れないだろう。授業参観も家庭訪問も実施されたことは一度だってない。


ベッドの中で頭が揺れる。眠りたいのに関節が痛くて眠れない。目に涙の膜が張って天井の点を数えようにも数えられない。あまりのしんどさにベッドから保健室の様子を伺うが誰もいないことがこんなに心細いとは知らなかった。


 結局、両親はこれなくて代理の人がきてくれるからと言っていた。訳もわからずベッドで待っていると迎えがきたようで、先生が「起きられる?」と聞いてくれる。でも上半身を起こしただけで世界が回る感覚に襲われる


 気がつくと真っ黒い壁が目の前にあった。小刻みに揺れているので人の腕の中だと気づく。長い、ウエーブのかかった、金色の髪。見覚えがある。だれだっけ、みたことあるっけ。


 ぼんやりとした視界で顔がよく見えない。


「Hi,boy.Good night」


 聞いたことがあるこえがする。ここにいちゃいけない気がするのに懐かしくて、体がしんどくて涙が出る。


 “心地よい夢が見れますように”


俺が願ったのか、俺を運ぶ誰かがいったのか、わからなかった。


 目が覚めるといつもの部屋に一人で寝ていた。リビングにでても両親はおらず相変わらず部屋は閑散としていて、あれは夢だったんじゃないかと思えてくる。


 けれど、着替えている服や置いてある薬に誰かがいた痕跡がある。あの懐かしい気配が誰だったのか今はもう思い出せない

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