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「ただいま」
学年が上がりほとんどひとり暮らしの状況にも慣れた。組織に関わらない生活をしているだけ両親には感謝しようと思う。
ほかに尊敬できるところも親らしいこともしてもらった記憶は全くない。時々帰ってくる他人として認識していれば、彼女が吐き出す呪詛にも、彼がストレスとともに吐き出す暴力に影響を受けることもなかった
いつものように返事はないものとして静かな家に入ろうとすると家の中がバタバタと騒がしい
「スイ!遅い!今から飛ぶから早く準備しろ!お前なんか放って行ってもいいがいざという時に使うためだ!準備しろ」
「え」
急になんだと言うのだ。部屋の中は必要な物を探したのだろう、ぐちゃぐちゃで。大事にとっておこうと友人からもらった物を入れた箱もひっくり返されてぐちゃぐちゃになっていた。初めて“俺”に与えられた物だったのに。
部屋の有様と同じで心の中もぐちゃぐちゃに踏みつけられて荒らされている気分だった。せっかく手に入れた平穏が、普通が、この人たちの手によって崩れていく。しかも、ついて来い?本当に行くと思っているのだろうか。
「...行かない」
「何?」
「行かない」
「そんなことは知ったことか」
髪を思い切り掴まれて引きづられる。行きたくない。ここにいたってどうせ組織の人間が来て知らないと言っても両親の場所を聞かれて殺されるだけだとしても一緒についていくのは嫌だった。俺が自分たちの思いどおりになると思われるのは嫌だった。
玄関の方まで引きづられて投げ飛ばされ壁に身体をぶつけて頭が揺れる。力の差がもどかしい。恐怖ですくむ体が煩わしい。
ガチャリ
玄関の開く音がする。あれ、俺鍵閉めたっけ?スローモーションのようにドアがゆっくりと開くのが目に入る。
どさり
部屋の中から重たいものが倒れる音がする。音がした方見るとさっきまで俺に怒鳴り散らしていた人が横たわっている。
え?あれ?どうなってるんだ?今人が来て、ドアが、え
玄関のドアをもう一度見ると黒い服に長い銀色。全身が逆撫でされたように身がよだつ。ジン。
彼は動かない俺を一瞥すると靴のまま部屋に上がり横たわった父親を跨いでハンドガンで小突く。ぴくりとも反応しない彼はもう息をしていないだろう。興味なさげにふん、と鼻を鳴らすとそのまま部屋の奥へ入っていく。
「なんでアンタがいんの!あの人はどこ!」
女の、金切り声がする。ポシュッポシュッっとサプレッサーを鉛玉が通る音がしてまたどさりと物が落ちる。
人が、目の前で殺されたというのに、その恐怖よりもジンへの恐怖でかその場を動けない。コツリとフローリングを踏む音がして目の前に黒い布。すっと視線をあげるとジンが不機嫌そうな顔をしていた。
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